Touch me, kiss me.
「…ねえ、兄さん」
「ん?」
「明日は、会議の予定とか入ってる?」
「いや、入ってないぜ。オマエは?」
「ボクも入ってないよ。…奇遇だねぇ」
「奇遇だな」
くつくつ笑って、顔を上げたエドワードの唇にかぷりと咬みつく。
「ちゃんと解ってて、部屋に来てくれたんでしょう?」
「まあな。忙しそうだったから、今日は無理かもしんねぇな、とは思ったけど」
「だよね、ホントに眠っちゃってたもんね」
「…一応は、起きて待ってるつもりだったんだぜ?」
エドワードだって疲れているのだから、自分の部屋で眠ってしまいたかったのも事実だろう。
それでも自分を訪ねてくれた、そのことが嬉しい。
「オマエが長く待たせるのが悪い。だから眠っちまったんだ」
「うん、ごめんね」
構ってもらえなくて寂しいなんて、拗ねた子供みたいなことを口にするのは筋違いだと解っているけど。
「せっかく、兄さんが夜這いに来てくれたのに」
「…夜這い言うな」
思わずほわりと頬の温度が上がる。
「違うの?」
「……違わないけど」
他の誰でもない、アルフォンスに面と向かって言われると、やっぱり照れる。
「ホントはね」
ほわりと赤みをのせた柔らかい頬を、指で辿って。
「あなたが今夜、ボクの部屋に来なかったら。ボクが行こうって、思ってた」
エドワードの顔の両脇に、両の肘を突いて。
見上げてくる黄金の瞳に、自分の顔が映るのを見下ろす。
「だって、もう何日もあなたに触れてない」
「…ん」
「毎日顔を合わせてるのに、仕事以外の話、全然できないし」
「うん」
「だから、すごくあなたに飢えてる」
一切の躊躇いもなく告げれば、エドワードの瞳が一瞬見開かれる。
琥珀色の瞳が、一瞬で艶を帯びる。
『兄弟』から『コイビト』へ、意識が切り替わる。
「…オレも、飢えてる」
ああそっか、そう言えば良かったんだ、なんて今更ながらに気づく。
「オマエに飢えてる。だから、ここに来たんだ」
仕事を放り出すような無責任なことはしないだろうしさせないけど、少なくとももっと早くに片づけようと頑張ってはくれたはずだ。
「…待たせて、ごめんね」
「それはもう良いから。…来いよ」
「───うん」
落ちてくるキスを、余さず受け止めるように。
エドワードは、頤を軽く上向けた。
作品名:Touch me, kiss me. 作家名:新澤やひろ