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Hug me, love me.

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二人で駆け上がる、嵐のような波が過ぎ去って。


「───は、……っ」
ひとつに繋がっていた体を、ふたつに戻して。
短く深く息を吐いて吸って、自分よりも細い肩をきつく抱く。
「ぁ…ん、ア、ルっ」
「ん…にぃ、さん」
回された手に背中を撫でられて、思わず目を閉じた。
甘やかして、とねだりながら、甘えろよ、と促してくるその手は、いつだってアルフォンスの胸の中にぽんと柔らかい明かりを灯す。
「すごく、熱いねぇ」
「…んぁ、っ」
腰を押しつけるようにして体を重ねて、微かに汗の浮かぶこめかみに口づけて。
「ねぇ。ボクと、兄さんと、どっちが熱かったかな…?」
問いかければ、はふ、と息を零して、エドワードは口許を綻ばせる。
「ん、と。…おんなじくらい、かな?わかんねぇや」
「ふふ、でもまあ…どっちでもいいよね」
「そーだな…どっちでも、いっか」
どちらからともなく、小さな笑い声が零れて。
「熱くて気持ちいいことには、変わりないものね」
「ん」
こくん、と幼い子供みたいな邪気のなさで、エドワードが頷いた。








シーツに額をこすりつけるようにしてエドワードの首筋に顔を埋め、啄んで辿る。
跡を残すほどの強さでなくいくつも贈られるキスに、エドワードが首をすくめた。
「ちょ、アル、くすぐった…っ」
「だぁめ、やめてあげない」
「ふぁっ、ん…も、アル、ってばっ」
どこかじゃれているようにもみえるアルフォンスを、笑いながらエドワードは抱きすくめる。
「今日、は、もう…できねぇん、だから、さっ」
「やだなぁ兄さん。それくらい、ボクだってちゃんとわかってるよ?」
いつの間にやら日付も変わっており、そろそろ眠らなければ執務に支障が出てしまう。
ただでさえ眠気を誘う会議の予定がないのは幸いだが、お互い重要書類にミミズののたくったようなサインを入れるわけにも行かない。
「だけどさ、兄さん不足を補いたいっていう、ボクの気持ちも察して欲しいな」
ようやく顔を上げたアルフォンスが、僅かに首を傾げるようにしながら兄を見る。
「この忙しさも、もう少し続きそうだし。今夜を逃したら、またボク兄さん不足のままで仕事しなきゃいけないでしょう?」
「う、わ…っ」
くるんと体勢を入れ替えられたエドワードは、アルフォンスの上にとさりと体を載せるようにされた。
「ボクとしては、それってすっごく不本意なわけ」
ついでに長い髪は、シーツの上に波打たせるように置かれて。
「だからもう、今のうちにいっぱい補充しておかなくちゃ、って」
「つまり、オマエはまだ足りてないと」
「そういうこと」
満面の笑みで肯定すると、アルフォンスは兄の体をきゅう、と抱きしめる。
「…だから、今日はもうしないけど、もう少しだけこうさせて」
形の良いエドワードの頭を撫でながら、甘えるように呟く。
「ま、そういうことならいいけど…」






「兄さんは、さっきので満足しちゃった?」
「いや、してねぇ。つか足りねぇ」
即答したエドワードに、頭を撫でる手が止まる。
肯定か否定かはともかく、まさかすぐに答えが返ってくると思っていなかったので、アルフォンスも咄嗟に言葉が出てこない。
「……えーっと、兄さん?ボクまだ頑張れるよ?」
「───え、あ、あああっ!」
「朝起きられる保証はないけど、も一回しよっか?」
戯けたように言われて漸く自分の発言に気づいたようで、我に返ったエドワードが顔を上げ、みるみるうちに首の辺りまで真っ赤になる。
「えと、あの、わ…うわ…何言ってんだろオレ…」
ひとしきり百面相しながらわたわたした後、エドワードは脱力してぱたりとアルフォンスの胸に顔を押しつける。
しまいにはその状態でうー、とうなり始めてしまった兄があまりにもおかしくて、アルフォンスはついにぷ、と小さく吹き出した。
「わっ、笑うな!」
「だ、だって…っ」
くつくつと笑って、アルフォンスはエドワードのしなやかな体をぎゅう、と抱きしめた。
「もー、なにやってんのさ兄さん!すっごい、すっごい可愛いんですけど…!」
「可愛い言うなっ」
「無理だよ!だってホントに可愛いんだもん…っ」
思わず暴れようとしたエドワードを腕の中に閉じこめて、笑いながらアルフォンスは思う。
今ここにいるエドワードには、国王としての責任感も、兄としての緊張感もない。
アルフォンスだけが引き出すことの出来る、エドワードというただひとりのひととしての表情。
甘えたで素直で可愛くて、そういうところもいとおしくてたまらない。
「…そっかぁ、兄さんもまだ足りないんだ。おんなじで嬉しいな」
好きな人に”足りない”と言われて、嬉しくないオトコはいないはずだ。
「あのっ、…あのな?足りねぇのは、事実なんだけどっ」
「…だけど?」
エドワードが身動ぐので抱きしめる腕の力を緩めると、目元にまだ淡い色をのせたままで見上げられた。
「だけど、ああいうふうにされたら、さ…歯止め、利かなくなるだろう?」
「ああ、またしたくなっちゃう、ってことか」
それはコイビトとしては、非常に嬉しいこと。
些細な触れ合いからも快楽を拾ってもらえるよう、アルフォンスは精一杯の熱情と愛情を込めて、エドワードに自分の肌を憶えて貰ったのだから。
「うーん…据え膳を前に、お預け食らう気分だけど…さすがに今日は、ね」
「だろ?」
明日が休みであれば、心おきなく続きになだれ込めるのだけど。
自分たちが国を背負う立場であることを忘れて、執務を疎かにするわけにはいかない。
「だから、あれはちょっと危なかったなー、って」
「そっか…ごめ、」
「ストップ」
謝ろうとしたアルフォンスの唇が、ぽてりと載せられたエドワードの指でふさがれる。
「危なかったってだけで、されるのが嫌だったわけじゃないんだ。だから謝るなよ」
そろりと少しだけ体を起こすと、エドワードはふわりと笑った。
「仕事が落ち着くか、休みが取れるまで。ちょっとキツイけど、するのは一応お預けってことにしとこうな」
お互いに、リミッターの外れるタイミングが似ているのだ。
せめて形だけでも目標を立てて、抑止力としておかなくては。
「…じゃあ、残ってる仕事、頑張らないとね」
「おう、早いとこカタ付けちまおうぜ」
素直に頷いたアルフォンスにもう一度笑って、エドワードは自分の指で塞いでいた弟の唇にキスを贈る。
その拍子に、長い髪がさらさらと小さな音を立ててアルフォンスの肌の上にこぼれおちた。




作品名:Hug me, love me. 作家名:新澤やひろ