恋は駆け足
「なっ、そんなわけありませんっ! オレが十代目に幻滅するなど、絶対絶対ぜえーったい、ありえませんから!」
拳を握りながら断言した。
しかし、あまりの迫力に綱吉が一歩後ずさったのが見え、またやってしまったと即座に反省する。
「す、すいませ、」
「謝るのはなし、だよ。それ聞いてオレ安心したんだから」
「十代目ぇ……」
なんて素晴らしいお方なのだと、感激して泣きそうになった。この人に一生ついていく。それだけは揺るがない。
「こっぱずかしいなぁ、もう。なにやってんだろオレ……きみといるとペースが狂っちゃうよ」
「えっ。す、……」
スイマセン、はダメだから、ええと。
中途半端に口を開いたまま固まる獄寺を見上げ、綱吉はふっと笑った。
「あのさ、獄寺くんさっき甘えていいって言ったでしょ」
「え? あ、はい。言いました、けど?」
「うん、じゃあさ。やっぱり、腕に掴まってもいいかな」
「えっ」
窺うような上目で見られ、たっぷり十秒は停止した。
「ダメかな」
「いいい、いいえ! ぜ、ぜひ使ってやって下さい! 何ならおぶりますし、十代目が許すなら抱き上げて運んでもっ」
「うん。それはやめてね」
「はい!」
躊躇いがちに伸ばされた小さな手が、獄寺の腕に触れる。身を寄せてきた綱吉の、服越しに伝わる体温。じんわりと浸透してきたそれを認識した途端、心臓が暴れだしたのがわかった。喜びが一気に焦りへと変わる。
足が竦む。
そういえば、こんなに接近することなど今までなかった。
「どうしたの獄寺くん。歩くけど大丈夫?」
「は、はい……」
綱吉は獄寺の左側にいた。よりにもよって心臓の近くだ。こんなにも大音量では聞こえてしまう、不審がられる。
触りたかったというやましい思いに、気付かれてしまう。
どうやって意識を逸らすべきか悩む獄寺の隣で、小さく綱吉が笑った。
「じゅ、十代目?」
「……ごめん、オレちょっと緊張してる」
そう言いながらも楽しげに口元を緩めて、獄寺をチラリと窺った。
「獄寺くんが緊張してるから、オレにも移っちゃったみたい。何か……すごくドキドキする」
心臓の音が重なるのを聞いた気がした。
相手も同じリズムなのだと思うと、誇らしいような気恥ずかしいような、どうにもくすぐったい気持ちになる。
隣を見れば、自分から仕掛けた悪戯に引っかかってしまったバツの悪い顔をして、綱吉が耳を赤らめているのがわかった。
何度も何度も思い、それでもどうにか押し止めてきた感情が指先にまで到達する。無礼なのは承知の上で、どうしても抱き締めたくて仕方なかった。
だけど今は腕に触れてくる手が愛しくて、放されるのは勿体無いから、目を逸らすことで耐えた。
トクトクと怯えた音が、同じ響きで一つの言葉を運んでくる。
好きです、好きです。
守りたいのと同じ強さと感情で、心臓は正直にも鳴り響いている。