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そんな『幸せ』もある

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!御注意!
この話は捏造で出来ています。泰衡さんも銀も秀衡さんも無事で、鎌倉との和議も成立していてその上泰衡さんと望美ちゃんは婚約ホヤホヤ、という完全俺得な設定から成り立っております。そしてネタバレもありです。以上の点、ご注意下さいませ。






そんな『幸せ』もある

 柔らかな日差しが降り注ぎ、春告げ鳥の麗らかな声が聞こえる穏やかな昼下がり。少し遅い平泉の春は、今が盛りを迎えていた。
 が、そんな穏やかなこの地の静けさを破る騒動が、今まさに(局地的に)勃発していた。


「そういう訳なので今後は私のこと名前で呼んでください泰衡さん!!要求が聞き入れられない場合は、人質…じゃなくて犬質の安全は保障しませんよ?!」
「ワンワン!」
「何がそういう訳なのか全くもって理解できんしその駄犬がどうなろうと知ったことではないが、とりあえず出て行け」
「神子様、まずは事情をご説明なさったほうがよろしいかと。その上で、改めて要求を突きつけては如何でしょうか」

 真剣な表情の望美、その腕にしっかりと抱えられている金、眉間のシワ3割り増しの泰衡、そして常と変わらず穏やか且つ物騒な銀。
 三人(と一匹)は今、泰衡の自室で睨み合い(?)の様相を呈していた。
 簡単に状況を説明すると、自室でその日の執務中だった泰衡のところへ、突如金を抱きかかえ銀を従えた望美が乱入。そして冒頭のセリフに続く訳で。

「う〜ん、やっぱり説明しないとダメかな?ちょっと方法間違えた?」
「いいえ、神子様らしい真っ直ぐさと純粋さが際立つ、とても素晴らしい手法でございましたよ。ですがそうですね、少なくとも泰衡様にはご理解頂けていない様ですので」
 出て行けとまで言われたことは完全無視で、自分の主張が分かってもらえない事に不満気な望美と、神子至上主義この上ない発言の銀。
――少なくともも何も、あんな一方的な言い方をされて一体何をどう理解しろと言うのか。そもそも何故そんな仲睦まじげなんだお前達は――
 不条理な事態に疎外感と苛立ちを覚える泰衡だったが、仮にも平泉を治める奥州藤原氏の当主、その矜持にかけてそう簡単にキレる訳にもいかないと、なんとか堪える。
「お手を煩わせて申し訳ないが、生憎と俺には読心の能力など無いのでね。ご説明頂けるかな、神子殿?」
 堪えはしたが、つい口調が辛辣になってしまった。だが望美が反応したのはそこではなく、最後の『神子殿』に対してだった。
「神子殿って言った!!名前で呼んでくださいって言ったのに!!(涙目)」
「泰衡様!神子様を傷つける仰り様はおやめください!! (「泰衡ぁ!!」の時の目)」
「ワォン!!(尻尾ぱたぱた)」
「〜〜〜〜っ、だから何故そういう話になったのかを説明しろと言っている!!銀、お前は口を挟むな話が進まん!!それと金、お前はいつまでそうしているつもりだ!!少しは番犬らしくせんか!!犬質になどされていないで抵抗しろ!!ええい尻尾を振るなこの駄犬めぇぇぇぇぇッ!!!(逆鱗があったら薙ぎ払いたい)」
 ――――当主たる者の矜持、意外と早くに崩壊。

 その後何度も脱線(主に望美による「銀は悪くないです」とか「金を駄犬扱いしないで」等の抗議で)しつつもどうにか泰衡が聞き出した事情とは、つまりこういう事だった。
 その日の午前中、秀衡に会いに御所を訪れた望美は、それはもう盛大な歓迎を受けた。通された部屋にはあっという間に食べきれないほどの料理が運ばれ、皆からの祝いだと装飾品に反物、絵巻物等、年頃の娘が喜びそうなありとあらゆる品物を贈られた。
 望美としては婚約を認めてもらえたことへの感謝と、今後もよろしくお願いしますという挨拶の為だったのだが、そんな彼女を制した秀衡は逆に、その手を取って優しくこう言った。
「その様な堅苦しい挨拶など、もはや不要じゃ。泰衡の嫁となるからには、儂の娘になるということ。これからはこの秀衡を父と思うて、困ったことがあれば遠慮なく申されよ、神子殿。いやいや、もう神子殿などと他人行儀な呼び方はいかんかのう? 親子なればやはり名前で呼び合うもの、これからは「望美」と、呼ばせてもらって良いかな?」
 元の世界に帰らずこの平泉に残ることを決めた望美にとって、その言葉はどんなご馳走や贈り物よりも嬉しいものだった。
「もちろんです!!本当にありがとうございます、秀衡さん!!」
「何を水臭い!父に礼など言わんで良いのだぞ、望美よ!!」
「秀衡さ―じゃなかった、お父さんっっ!!」
「我が娘よっっ!!」
 人探し番組で何十年ぶりかの再会を果たした親子のようなノリで、がしぃっと抱き合う秀衡と望美。その場には他に誰も居なかった為当然ツッコむ者も無く、仮に居たとしてもこの二人にツッコめるかどうかは怪しい所だった。
 そしてこのやり取りによって望美は気が付いてしまった。自分はまだ、一度も泰衡に名前で呼ばれたことが無い、と。自他共に認める(←望美的主観)恋人同士であり今や婚約までした仲でありながら、ただの一度も呼んでくれたことが無い、と。そう思ったら、いてもたってもいられなくなって。

「………………………………で、そこから直行して俺の所へ来た、と。そういう訳か?」
「はい、そういう訳なんです!!」
 分かってもらえて嬉しいとでも言わんばかりの笑顔の望美に、泰衡は本当に頭を抱えたくなった。

―――まったく……父上も余計なことを言ってくれたものだ―――

 やはりあの時止めを刺しておくべきだったのだろうかと、浄土へ行けない事この上ない思考が頭の中をちらりと過ぎったが、それよりも今は目前の脅威を取り除く方が先決だった。
「事情は理解した。だが、今早急に呼び方を改める必要性があるとは思えんのでな。要求には応じられん」
「必要性とかそんな理屈じゃないんです!!泰衡さんにとってはどうでもいい事かもしれないけど、私にとってはすごく大事なことなんです!!別に「マイハニーww」とか「マイエンジェル☆」とか呼んで欲しいなんて贅沢なこと言ってる訳じゃないんですよ?!名前で呼んでくれるくらい良いじゃないですか!!」
 力いっぱい抗議の声を上げる望美に、泰衡は内心困惑した。彼としても、どうでもいいなどと思っている訳ではなかった。むしろ名前の持つ重要性を解っているからこそ、そう簡単には呼べないのだ。
 それと、おそらくは彼女の世界の言葉であろう「まいはにい」と「まいえんじぇる」とは如何なる言霊なのかも気になったのだが、何故かその言葉の響きからロクでもない意味な気がして聞くことは躊躇われた。

 ―――とにかく、このままでは埒があかんな。仕方が無いが―――

 僅かの間思案した泰衡は、気付かれない程に微かな溜息をついた後、おもむろに控えていた銀に命じた。
「銀、俺の馬を出せ。門のところで待たせておけ」
「泰衡様?―――はい、承知致しました。神子様、しばし御前を失礼致します」
 一瞬泰衡の言葉を量りかねた銀だったが、すぐにその言わんとしている所を察した様子で一礼すると、主の命に従うべく部屋を出て行った。部屋には泰衡と望美だけ――
「クゥン?」
 ではなかった。望美の腕の中で、金が物問いたげに主を見上げている。