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「……っ骸!俺、俺は…!」

顔を上げると目の前に左右で色の違う瞳があって、そう思ったら、それは伏せられ、変わりに唇に柔らかいものが触れた。

いくら綱吉でも、それが何なのかを理解するには十分すぎる年齢。
閉じるべき瞳は見開かれ、堪えていた筈なのに透明な雫が一筋、頬を伝って落ちていった。
頬に添えられている手の冷たさが分からなくなって、綱吉はようやく、その琥珀色に輝く双眸をゆっくりと閉じた。

(……僕は馬鹿だ。もう別れなければいけない。もう逢えないかも知れない。それなのに綱吉君は今、自分の気持ちを伝えようとしてくれた。)

【君が好きです。付き合って、頂けませんか?】

結局、待っていた答えを遮ったのは、それを待っていた骸自身だった。

本当は返事はいつでも良いと待っていたのも、無理に答えてくれなくて良いと言ったのも、答えを聞くのが……恐かったのかも知れない。

今だってそうだ。
それが恐い。

別れ際に零される、愛しい人からの最後の言葉。
……この期に及んで、自己満足で済ませようとしたのかも知れない。

(ごめん、骸……。俺、ずっと言えなかった。今日のこの時が恐くて、ずっと、ずっと……。答えは直ぐに返せたのに、意気地無しな俺は、そうしなかった。いや、出来なかった……。)

自分がその時に最善となる答えを出しても、それが後に傷となる事が分かっていた綱吉は、骸の言葉に首を縦に振ることは出来なかった。

【えっ、と。あ、ありが、とう。でも……少し、考えさせてくれる……?】

あの時に、首を横に振っていれば良かったのかも知れないと何度となく思い返した。

それでもそうしなかったのは自分の気持ちと、想いを寄せてくれた彼に嘘を付きたくなかったから。
しかし、良いと答えられなかったのもこの時に辛いだけだと、そう思ったからだった。

でも、本当は違うのかも知れない。

本当は別れが辛くなる事が、骸に咎められるかも知れないという仮定が恐かっただけだった。

「骸……。」

離れた唇。
ひゅうっと吹いた冷たい風。

終電にもなる時間。
ホームに人気は無く、それが尚、空気を冷たくしているのかもしれない。

骸を見上げ力無く呟くと、彼は困ったように笑って綱吉の頭にぽんぽんと手を乗せた。

「良いんです。こうなると分かっていたから、君は答えられなかったのでしょう。謝るのは、僕の方です。……すみません、辛い想いを、させましたね。」

綱吉はそう言って瞳を伏せた彼の手をぎゅっと握り、首を横に振る。
それに驚いたかのように、再び瞳を開いた骸は真っ直ぐに綱吉を見据える。

琥珀色に輝く瞳は、電球の光を拾い、それを反射させている。

そしてそこには他ならぬ自分が映っていることに、自分と綱吉は全く別の人間だという事実を突き付けられた。

何度も何度も自分に言い聞かせるかのように首を横に振る綱吉は、視界が段々とぼやけてくるのが分かった。

泣いている場合ではない。
今伝えなければ、これから先に伝えられる保証はない。

「ううん……!俺、骸と一緒にいられて、楽しかった!なのに……ごめ、ん……っ、俺が謝らなきゃ、いけな……っ。本当、に、……!」

泣いていてはいけない。
沢山の謝罪と、沢山の感謝の言葉を。
骸と一緒にいられて、自分は救われていたと。

離れ離れになる前に、自分の気持ちを。
分かりきっている感情でも、自分が言わなければ……言葉にしなければ、ずっと伝わらないままだと。
そう思えば思うほど……止めようとする意思に反して、涙はとめどなく溢れる。
綱吉は乱暴に涙を拭うが、それが意味を為すことはなかった。

そんな彼を見ながら骸は、綱吉の中の純粋で脆い部分に自分が触れた為に、彼を沢山悩ませ、辛い思いをさせてしまったことを悔いた。
もし彼だけでなく、自分もこの時の事を知っていたら、自身の中で留める小さな想いとなって彼に言い出さなかっただろう。

でもそれでは、あまりにも悲しすぎる。

だったら今の様になって、最善とは言えないかもしれないけれどこれで……こうなって良かったのかもしれない。
別れると分かっていたら言わないような気持ちなど、持っていてもいなくても変わらない。
この気持ちを、伝えなくても満足してしまうような感情にしてしまうには、あまりにも大きく……温か過ぎるのではないか……。
この状況になると決まっていたのであれば、結局はそれまでの自身の気持ちの持ち様だったということだ。

お互いの気持ちは、言わずとも手に取るように分かっていた。
それなのにそれについて触れなかった綱吉を全く気にかけなかった自分が、とても不甲斐無くて、苛立ちをも呼ぶほどだ。

今になって分かる。

彼から骸に、遊びに行こうと言った事は一度も無かった。
毎回骸が誘って、二人で色々な所に行っていた。
誘えば来てくれたし、毎回何をしていてもすごく楽しそうだった。
しかし決まって、別れ際にはどこか笑顔に陰りが射していた。
それが、その時だけの淋しさでないということがどうして分からなかったのだろうか。

何か隠していないか?

何故気が付いてあげられなかったのだろうか。
今、目の前で自分の為に涙している少年は、どんな思いで共にいてくれたのだろうか。

知らぬ内に、返そうとしても返しきれないほどの優しさをもらってしまった。

「……おやおや、泣かないで下さい。良いんですよ。僕も、君といられて……綱吉君と過ごすことが出来て、楽しかったです。さあ、もう泣かないで。そろそろ時間です……電車が、出ますよ。」

そう言って苦笑した骸はゆっくりと綱吉から手を離し、綱吉も電車へと足を掛けた。
すっと振り返った綱吉は、今までに見たことのない笑みを浮かべていた。
沢山の優しさの中に、ほんの少しだけ寂しさを隠した。
でもとても穏やかで、温かい笑顔だった。

未だに流れつづける涙に負けずゆっくりと開いた唇からは、骸が一番待ち望んでいて、それでいて聞くことが出来ないかもしれないという言葉が紡がれた。

「……っむ、くろ。ありが、とう……!俺、骸の、事…大好き、だよ……!」

まだまだ言いたい事が沢山ある。

それでも、時間は限られているし、止まってくれない。
だったら一言に、沢山の、抱えきれないほどの気持ちを乗せて……たった一言、それだけ伝えられれば良い。
きっとそのうちの半分は謝罪で、もう半分が感謝で。
両方とも、完全には伝わらないだろう。

それでも、構わない。
ただ一言、大好きだと、伝えられればもうそれで。

骸はまた、そんな彼との距離をゼロにして自分の腕の中に閉じ込めた。
もう、この腕を解いて彼を離すことが辛い。

どうしてこのままなにも変わらずに、綱吉と生活することが出来なくなるのだろうか。
今更別れるなんて、何度考えても……余りにも不幸だ。

自分から手を離したのに、また勝手に彼に手を伸ばしたのは自分で。
綱吉の手が骸の背中に回って、それを合図に骸は綱吉をぎゅっと抱きしめ、感情を押し切って声を絞り出す。

「ありがとう、ございます……っ!僕もですよ、綱吉君。」
「うん……あり、がと。」

名残惜しいが、自分達の都合ですべてが動くわけではない。
作品名: 作家名:ゆず