愛
ゆっくりと腕の力を抜いた骸。
微笑みながら彼を見上げる綱吉。
「……いつか必ず、逢いに行きますね。その時は、もう一度プロポーズさせていただきます。」
逢える保証もなく、連絡も取れなくなる。
きっと、再会する確率の方がずっと低い。
そんなことなど分かっている筈なのに、必ずと言ってくれた骸に笑顔で頷く綱吉。
希望ではなく、断言してくれた。
それだけでもう、十分なのに。
不可能だと分かっているからと言って諦めるのではなく、その中の、見つけられない実現と言う可能性を拾い上げる。
そんな彼の優しさと強さに何度救われたか分からないというのに。
「……う、ん……うんっ!ずっと、ずっと、待ってるな……!」
この期に及んでそう笑顔で返してくれる。
彼は何があってもいつも笑顔でいてくれた。
悲しいことがあっても辛いことがあっても、負けられないからと言って決して無くならなかった笑顔。
どんな時も、笑いながら色々な話をしてくれて。
それこそ時間を忘れるくらい。
綱吉は、骸ほど強くないからといつも健気に振る舞えるように努力していた。
骸が苦しんでたり悲しんでたりしたら自分が助けてあげられる様にと、いつも笑顔でいてくれた。
そんな彼に、何度手を差し延べてをもらって何度その手をとったのだろうか。
何度も、綱吉に助けられている。
返せない程の気持ちをもらっているのに、このまま別れてしまうのは歯がゆい。
でも、どうしようもない事だ。
次に逢う時までに、お礼を沢山用意しておかなければならない。
今は何も返せないなら、せめて。
……笑顔で、別れよう。
「ええ。……どうかそれまで、お元気で……。」
「骸も、な。……風邪、引くな、よ。」
どちらともなく、笑みが零れた。
それを待っていたかのように、電車のドアが閉まった。
……たったドア一枚。
これが、こんなにも厚い壁になる。
『ありがとう……。』
その声はもう、相手には届かない。
『お前との、』
『君との、』
『この気持ちは、無くさない。』
いつまでも、ずっと。
離れてしまった手は、もう、離さない。
また逢えるから……。
だからまだ、別れの言葉はいらない。
今の俺達に必要なのは、
別れではなく、約束でしょう?
だから今は……。
『また、今度。』