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届かないから歌わない

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男と顔を突き合わせての食事にももう慣れた。互いに留学生生活が長いせいか、料理の腕はそれなりなのだ。ならばわざわざ金を出して外食をするよりは食費を持ち合わせて自宅で作った方が美味い物が食える。
 コメリカの料理はそれなりに美味いものは美味いがいかんせん店を選ばなければならない。
 皆本の所には実家から味噌が送られてくるらしく、それを使ったみそ汁は成る程懐かしい味だ。
「はー、やっぱ味噌は良いねぇー」
 それでも毎晩毎晩互いの顔を見ての食事はなかなか無い。例えば自分が合コンに出掛けたりだとか、皆本の研究が夜まで続いたりすると一人で食べる。その日も二人分作っておくのは不経済だからだ。態と多めに作って弁当にしたりもする。
 ……尤も、行き過ぎると変な目で見られるのだが。
「さすがにこういうのは外じゃなかなか食べられないですしね」
「こればっかりは皆本のお母様々だな」
 焼鮭を頬張りうまうまと頷いた。笑う賢木の顔をじっと見て、皆本が食事の手を止める。皆本は一度合わせた視線を外さない。そこは良いところであり、同時に短所とも呼ばれるだろう。
 こんな年でコメリカまで留学に来ているだけあって皆本は優秀だ。そんな事は履歴書を見るだけで分かる。ぺらぺらの紙は皆本の経歴を華々しく讃えるが、そんな事ばかりでは無いことを残念ながら賢木は知っていた。
 性質なのか、なんなのかやたらとこいつは妙な所で勘が鋭い。
 それこそ意識はしていないのだろうが、弱いところを突く癖がある。その上に世話焼きのきらいのある皆本は相手に手を差し出してしまうのだ。自分と初めて会った時もそうだったのだから、これはもう本能のようなものなのだろう。
 いつかこれで大火傷でもしそうだ。そう、例えば厄介な女に引っ掛かったりしそうだ。「賢木さん」
 静かに名前を呼ばれて思わずお椀を傾ける手を止める。ふわんふわんと立ち上った白い湯気が顔に掛かった。皆本がやればきっと眼鏡が白く曇るだろう。
「なんでもねえよ」
 気にすんな。
 お椀を置いて口の端を持ちあげて見せた。咎められた事で心の奥に沈めた筈の嫌な事が顔を覗かせる。言ってしまえと頭の奥で自分が囁いた。
 言って自分の傍に縫い付けてしまえば良い。この手のお人好しなら一度依存されたらきっとその手を振り払えない。
作品名:届かないから歌わない 作家名:nkn