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届かないから歌わない

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 そう甘美な提案を頭が吐き出す。吐き出すが、どうもそれはフェアでは無い気がして結局却下した。そんな事で皆本を手に入れてもきっと自分は満足しないだろう。第一賢木にのみ視線を向ける皆本など皆本ではない。
「でも……」
「良いから。さっさと食わないと冷めるぜ」
 残り少なくなったご飯を大口で放り込み、鮭と一緒にもぐもぐと咀嚼してしまう。まだ疑っている目をしている皆本に一つウィンクをくれてやった。
「なぁに皆本クン、俺様に惚れちゃった?」
「そっんな訳! ――ああもう心配して損した!」
 ガタッと椅子を鳴らして立ち上がり掛けたが、またすぐに座り直す。そして黙々と食事を再開した。
 その後取り立てて会話が有るはずも無く、機械的に嚥下する。それでも味が無くならないのはきっと日本食が恋しいからだろう。
 テレビでは感情的に超能力を解説していた。

 結局シャワーまで借りて、ついでに泊まっていってしまう事にした。なんだかんだで帰るのが億劫になってしまったのである。もしかしたらアパートの前に女の子がブッキングしているかもしれない、と思うと明日帰る気すら起きなくなってくる。
 一応客扱いだからだろうか、先に使わせてもらって今は皆本がシャワーを使っている。その間ソファに横になりながらテレビを眺めた。
 この体勢は恐らく皆本が戻ってきたら行儀が悪いと怒りそうな気がする。いや、態と怒られるのも良いかも知れない。
 テレビのノイズに紛れて、今日聞いた陰口を思い出す。今更聞き慣れたものだ。殊怒る話でも無い、と言い聞かせても心はささくれ立つ。以前ならばそれなりに耳を揃えて倍返ししてやったものだが、皆本にやたらと密度の濃い説教をされてからはとんと控えるようになった。
 テレビの中では相変わらず持て囃されている超能力者を薄い目で見る。念動力でジャグリングをしたり、パズルを組み立てている。それから親日でも訴えているのか掌で止まっている大駒を回したり。まるで曲芸師のようだ。あるいは道化師だろうか。よく言って大道芸……と考えたがこれは別によく言っていない。
 これならばまだ軍に所属しているエスパーの活動を報道した方がましだ。と思ったが、他国の人間も多いこの国が、たとえマスコミ向けとしても手の内の一部を明かす筈がないだろう。
作品名:届かないから歌わない 作家名:nkn