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トラブル・スクエア2

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「静雄、次の授業移動教室だぞ。そろそろ行こう」
「あ、……うす」
 眠そうな顔で机に突っ伏していた金髪の少年は、京平の声で顔を起こす。
 長い睫毛。整った顔。暴力行為が目立ちやすいせいか女子人気はほとんど無いも同然だけれど、このクラスメイトは綺麗な顔をしていると京平は最近思うようになっていた。
「……静雄、早くしろよ」
 まだ寝ぼけているのか、のろのろと机で教科書をあさる静雄。
 暫くはのんびり待っていたが、探しながらまたウトウトと寝入り始めたのを見て、京平は溜息をついた。
「全く。ほら立って。俺が教科書探してやるから」
「……お、おお」
 眠そうな顔のまま椅子から立ち上がる静雄の机から、次の授業の教科書を見つけ出し、京平はそれを彼の手に持たせた。
「なぁ門田。やっぱ俺、次の授業フけるわ。眠くてさー」
「駄目だ。授業はちゃんと受けるんだ」
 泣きごとは聞かなかったことにしよう。京平はきっぱり返して、廊下に向かう。静雄は何も言わずについてきた。
 廊下に出ると、新羅と臨也が二人で立ち話をしていた。京平達が出てくると同時に気づいて、こちらに顔を向けてくる。
「あー、静雄起きたんだね。今回は流石に熟睡してたから無理だと思ったよ」
 眼鏡越しの目を細めて、新羅が楽しそうに笑った。
 臨也のほうは肩をすくめて、静雄の方へと冷たい視線を向ける。
「眠たいなら眠っちゃえばいいのに。どうせ次の授業も眠りっぱなしで怒られるんだろ」
「うぜぇ、臨也……」
 背後で静雄が鼻息を荒くしたのに気付いて、京平は静雄を振り返って、胸元に手の平を置いた。
「落ちつけ静雄。大丈夫だ。歩きながら少し目を覚まそう」
「あ、ああ……」
 静雄は京平にこくん、と素直に頷く。
 そういう反応が嬉しかった。
 最近、静雄は京平の言うことをよく聞いた。だから居眠りすることはあっても授業は毎時間出ていたし、喧嘩沙汰も減っていた。
 まだ1週間ほどしか継続できてないけれど、このままのペースで卒業まで行けたらいいなと京平は思う。俺が側についていて、ちょっかいを出してくる臨也からガードしてやれば、きっと不可能じゃない。
「……すっかり飼いならされちゃってさ」
 臨也が甲高い声で吐き出すと、新羅が「まあまあ」と彼をなだめた。
「うぜぇ……」
 また静雄が呟く。京平はそれを見上げて、小さく息をついた。
「行こう、静雄。構わなくていいから」
「ああ」
 二人に構わず、京平は静雄と先を急いだ。離れて行く背後で二人がまたひそひそと話していて、静雄は気にしているようだったが構わせなかった。
 そのうち静雄だってこういう生活に慣れてくれる筈だ。
 別に授業をフケることがそんなにダメだと思うわけじゃない。
 京平も以前、教師の態度が気に食わなくて授業をボイコットしたこともある。眠いなら授業で寝てても別にいいと思う。
 ただ、移動教室の時に、教室に一人残って居眠りでフケるなんてそれは駄目だ。
 臨也にからかわれたり、他の生徒にちょっかい出されて、怒り狂ってまた何かを壊したりさせたくないのだ。

 ――要するに、俺は静雄を自分の目のつくとこに置いておきたい。

 最近、認識した自分の意外な性格を京平は思い起こす。
 押しつけがましいんじゃないだろうか。余計なおせっかいじゃないだろうか。
 そう思いながら静雄をふと見上げると、静雄は真面目な顔で京平の後をちゃんとついてきていた。
「ん? なんだ門田」
「いや、なんでもない」
 ほんの少し気恥かしくなる。気にし過ぎなんだろうか。


作品名:トラブル・スクエア2 作家名:あいたろ