トラブル・スクエア2
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『それはなかなか興味深い考察だよね。君と知り合ってそろそろ1年になるけど、まさかドタチンの口から『恋』なんて言葉が出てくるとはね。しかもその相手が静雄だなんて!驚天動地とはこういうことか』
「あんまりわめくな、耳がキンキンするから」
水曜日の電話。最近静雄といつも一緒にいるから、静雄のことを誰かに相談するなどずっと無理で。しかし月曜日からこの不器用な後ろめたさをちょっと含むような気持ちは『恋』ではないかと悩み続けていた京平は、ついに新羅に電話をかけてしまっていた。
『ああ、ごめんごめん。あんまり驚いたものだからね』
「相談するの、結構悩んだんだぞ――笑うなよ」
自宅部屋で今こうして電話しながらも、相談してよかったのかまだ悩んでいる。
でも誰かに聞いてもらうべきだと思った。
最近、静雄のことが心配すぎて、学校が終わってからも何をしているのか気になって仕方なかったりするのだ。臨也のことだからあいつの自宅まで押し掛けてやしないか、とても気になる。
これは絶対いわゆる――独占欲という奴だ。
そのうち絶対相手に嫌われる――小説とかだと絶対そうで。
素直に気持ちを吐露していると、新羅は一通り聞いてくれたあとで、返してくれた。
『うーん、独占欲ねぇ。ドタチンがそういうタイプとは確かに意外だったけど、でもそれって恋っていうよりさ』
「恋というより?」
『――あれじゃないかな。保護欲? 静雄が危なっかしくて見ていられないっていうのは僕にも少しは分かるような気がするよ。まあ僕の場合だと何が起こるのか楽しみにしちゃってる部分もあるんだけど』
「新羅……」
『ああ、ごめんごめんってば。でもさ、もしそれが恋ならさ』
「ああ」
『あの静雄とさ、……手をつなぎたいとか、抱きしめたいとか、……もっと……例えばちゅーしたいとか……そういうのもあるのかな?』
「!!」
いや、それはない。
京平は背筋を走りぬけていった寒気をこらえた。
「……やっぱり保護欲なのかな」
『じゃあ独占欲とは言わないね。なんだろう……過保護?』
「過保護か……」
それはある意味、独占欲よりも悪い言葉なのかもしれない、と門田は思った。
明日からは少しだけ、静雄に自由を与えてあげよう。そうしないと自分がますますエスカレートしそうで、京平は心配になる。
『あー……でも、嫌かどうかは静雄が決めることだしね。静雄って割と犬みたいなとこあるし、誰かの言われるままにするの嫌いじゃないかもしれないよ』
「は? ……いや、そんな奴いないだろ」
『さあどうかなあ? 中学の頃、静雄、ものすごく懐いてた先輩がいたみたいだし』
「へぇ」
それは初耳だった。
そういえば京平は静雄と随分親しくなった気はしていても、お互いのことをあまり話していない。
――明日、聞いてみようかな。
新羅との電話を切ったあとも京平は、妙にもやもやと静雄のことを考えていた。
――恋じゃないならよかったのかもしれない。
――だって恋だったら、初恋になる。
初恋はうまくいかないもの。
なにかの本で読んだフレーズがまるで魔法の呪文のように、頭の中をぐるぐると廻って。
初めて他人を自分の思い通りにしたいと願っている、自分の滑稽さを肯定していいのか、否定するべきなのか、京平はベッドに入った後も長いこと考え続けていた。
作品名:トラブル・スクエア2 作家名:あいたろ