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いまわのきわ

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長い夢を見ていたような気がする。
その夢の中で、大事な少年がずっと泣いていて、自分は慰めてやりたいと思うのに、手が届かないのだ。
やがて、自分自身を責め続けた少年は、暗い闇に魅入られて、その淵に沈んでいく。
助けたい、そう思うのに、自分は何も出来ず、無力感に打ち震える。
だがしばらくすると、再び少年の泣き声が聞こえ、同じように自分は手を伸ばす。
結果は同じで、何度も何度も自分は自分の無力さに打ちのめされるのだ。

その暗い闇に、突然、光が差し、眩しさに目を覆った。
しばらくしてから目を開くと、夢の中の曖昧な闇ではなく、真っ白い天井が見えた。
背に受ける柔らかい感触はベッドだろう。
半覚醒の頭で、今自分が置かれている状況を思い出そうとしたとき、
「いざや…さん。」
すぐ傍で、震える声が聞こえた。
そこには、夢の中で、何度も何度も助けられなかった大事な少年がいて。
臨也は急に起き上がろうとして、胸元に走った痛みに息を詰める。
「ま、まだ起き上がったらだめです!」
慌てて、泣きそうな声でその少年が言う。
「みかど…くん。」
うまく機能しない声帯から、無理やり声を絞り出す。
「いざやさん。」
帝人はあの時と同じように泣きながら、けれど、あの時のように魂が抜けたような響きではなく、
その言葉を繰り返した。
腕を持ち上げてその頬に触れると、びくり、と、帝人はやはり怯えたような反応を返したが、
拒絶はされなかった。
少し考え、溜息のような息を吐き出した。
「どうやら、俺は生き残っちゃったみたいだね。」
そして、いつものように、皮肉げに口元を吊り上げた。

しばらくして帝人が呼びに言った新羅の話と、帝人がぽつりぽつりと語った話によると、
あの時自分は本当に死に掛けていて、偶然通りかかったセルティが大慌てで新羅の元まで臨也を運んだあとも、
3日近く危篤状態が続いたらしい。

「まーったく君のしぶとさには呆れるよ。
 普通の人間だったら3回は死んでるよ?」

友人が危篤状態だったというのに、いつも通りの調子で大げさに両腕を広げる新羅に、
「だてに日常的にシズちゃんとやりあってないからね。」
と平然と返し、疑問に思っていたことをぶつけた。
「なんで帝人君があそこにいたの。それと、セルティがあんなところをたまたま通りかかるなんて、
 偶然にしちゃあ出来すぎじゃない?」
新羅の指示で帝人が水を替えに言っている隙にそう問いかけると、
珍しく新羅がちょっと困ったような顔で、歯切れ悪く答えた。
「うーーん、僕は詳しく事情を知らないんだけど、セルティの元には、静雄から連絡があったそうだよ。」
帝人が大変なことになっているかもしれない、と。
その言葉に、シズちゃんが、と口の中で呟き、
「へぇ。」
と口元を歪めた。
「帝人君が、君が死に掛けてる場所に遭遇したのは、
 あの時、臨也が死に掛けてるって喧伝してた阿呆の話を聞いたせいじゃないかな。」
なんでも、インターネット上のあまり柄のよくない掲示板に、そんな情報がまことしやかに書き込まれたらしい。
その情報は、ダラーズの掲示板にも転載されたとか。
そんな話を面白くなさそうに聞いていた臨也は、しかし、回復したら、いい遊びが出来そうだ、などと
頭の中でさまざまな情報を組み合わせ始めていた。
まあしばらくは安静にしてるんだよ!と、言って、部屋を出て行った新羅と入れ替わりに、
帝人が部屋に戻ってきた。
涙の痕が残るその目元とは裏腹に、その表情は、いつもどおり、強張ったようなものに戻っていた。
「タオル、換えますね。」
臨也と目をあわさずに告げて、帝人が、臨也の額に、換えてきた水で絞ったタオルを置こうとしたとき、
臨也はその腕を強引に掴んだ。
急に動いたせいで傷口が痛んだが、無視した。

「っ!」

息を詰めて顔を青褪めさせる帝人に、臨也は笑いかけた。
「シズちゃんに、なんて言われたんだい?」
窺うような、愉しげな、その言葉に、帝人の表情から色が消える。
青白いを通り越して、今にも倒れそうな顔色になった帝人は、けれど、唇を引き結んで、
臨也を睨み付けた。
「…あなたなんか、死んでしまえばよかったのに。」
その言葉は憎しみを表しているのに、それを口にするその少年の瞳は泣きそうに歪んでいて、
臨也は、はあ、と溜息をついた。
臨也に向かって死んでしまえと言いながら、この少年は自分が死んでしまいそうな表情をしている。
自分で自分を傷つけるように、血を流す傷口を広げながらもこちらを睨み付ける少年に、
臨也は、ふふ、と笑いかけた。
「あのとき、聞こえたのさ」
その言葉が。

”し な な い で”

ってね。
愉しげに告げる臨也に、帝人は目を見開き、次の瞬間、自己嫌悪に陥ったように俯くと、
「そんなこと…言っていません。」
小さな声で、反駁した。
「そう?それでもいいよ。俺には聞こえたんだから。」
出口の見えない押し問答に、帝人は焦れたように言った。
「手を、離してください。」
「いやだよ」
臨也は即答した。
その面白がるような表情に、帝人は、かっとなったように言葉を荒げた。
「あなたは、あなたはっ、どう、して…」
何事か言葉を続けようとして、けれど途中で勢いを失い、力なく項垂れる。
「どうして、僕なんかに構うんですか。
 僕は、僕は…。」
ひどい自責の念に苛まされているように俯く帝人に、臨也は、するりと告げた。
「君の事を愛しているからさ。」
その言葉に、帝人は大きな目を、これでもかと言うくらい、見開いた。
「非常に残念なことだが、俺もつい最近ようやく気づいた。
 なんでシズちゃんといる君を見るとこんなに苛々するのか。
 俺を見ようとしない君のことを許せないと思うのか。」
自分の事ながら、今まで気づけなかったのは一生の不覚だ、そう嘯く臨也を、
信じられない、というように帝人は見つめた。
そんな帝人に笑いかけ、臨也は言った。
「あのときみたいにキスしてくれたら、この手をいったん離してあげるよ。」
「なに、馬鹿なことを…」
震える声で、そう言い返す帝人に、告げる。
「馬鹿なことじゃないさ。今の俺にとってはこれ以上はない重要問題だ。
 何せ、君があの体力馬鹿と付き合いだしてから、俺はいらいらしっぱなしで、人間観察もろくに手につかない。
 なら、情報屋の仕事でも、っと思ったらこんなへまをするし。」
やれやれ、と肩を竦める。
「俺はこの問題をどうにかしないと、先に進めないみたいだ。」
その言葉に、帝人は口元をわななかせる。
「僕は…」
「あ、シズちゃんに遠慮して嫌いとか言うのはナシだよ。
 シズちゃんもそんなこと望んでないんだろう?」
拒否の言葉を吐き出しそうだったその唇を制するように、先んじて告げる。
その言葉に、より顔色を青褪めさせる帝人。
やはり、そうか。
ほとんどかまかけだったが、先ほどの新羅の話と、帝人の様子、無駄にお人よしな静雄の性格を
加味して、組み立てた推論は当たっていたようだ。
嫌なやつに借りを作っちゃったな…。
そう思いながらも、臨也は、帝人が口を開くのを辛抱強く待った。
ひどく長く感じる沈黙の後に、小さく少年の唇が震え、
そして----。



作品名:いまわのきわ 作家名:てん