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君がいいの。

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指先が、ゆっくりと伸びて頬に触れる。
おそらく初めて自分から伸ばした手が触れても、その人は、いつものように笑うことはなかった。

「・・・ばかじゃないの」

つぶやいた言葉はひどく震えていて、ああ、そうか僕は怖いのか、と帝人は息を付く。だって仕方がないじゃないか。まさか3日も降り続いているこの雨の中を、道に転がっているなんて予想だにしなかったのだから。
誰がって、折原臨也がだ。
ぺしぺしと頬を軽く叩いてみたが、したたか雨に濡れた体が起き上がることはなく、目も開かない。どうしたものか、逡巡したのはほんの少しの間だけで、帝人はすぐに折りたたみの傘を閉じて無造作にカバンにしまった。多少水に濡れるモノもあるだろうが、そんなことは気にしていてもしょうがない。
多分帝人くらいしか一日に通る人間のいない小さな路地に転がっていた臨也を、えいっと掛け声を上げて担ぐと、重さにフラフラになりながらなんとかおんぶして、そのまま自分の家へと歩き出す。手馴れた動作だ、何しろこれで5度目なのだから。
最初にこんなふうに転がっている姿を見たときは帝人だって、かなり驚いたし心配もしたのだ。
けれどもセルティを呼んで新羅のところにまで連れていったというのに、目覚めた臨也は開口一番、
「あれ、なんで新羅のとこにいるの」
と不機嫌そうに言い放った。
「なんでってすごい熱だったから・・・」
「・・・俺は帝人くんの家に行こうと思ったのに」
「は?僕の家、ですか・・?」
「帝人くんの家が、よかったのに」
その後は何を言っても、「帝人君の家がよかった」と繰り返すばかりで埒があかないし、せっかく手当をしてくれた新羅に食って掛かるしで手に負えなかったのだ。
なだめすかして薬を飲ませて、眠らせたあと、新羅が苦笑しながら帝人に告げた。
「臨也って昔からそうなんだ。熱がでると子どもっぽいわがままを言うようになるんだよね」
新羅が言うには、熱が出たときに限って、こういう奇行をするらしい。普段が計算ずくで頭を忙しく動かして生きている人間だから、こういう時にちょっとでも頭の動きが鈍くなるとおかしくなるんじゃないの、と言われて、はあそういうものですか、と帝人も納得せざるを得なかったのだが、高校時代は屋上に行きたがったとか。
「それで、なんで僕の家なんでしょう?」
首をかしげて問えば、新羅は声を立てて笑う。


「安心するからでしょ」


それはあまりに予想外の言葉だったので、帝人は思わず絶句してしまった。
「え・・・、あの、でも」
数えるほどしか、招いた覚えはないのだが。
それにあの家には何もなく、臨也が安心出来る要素など思いつかない。セキュリティなど内も同然のボロ家だ、むしろ不安の方が強く感じるのでは?
思わず考え込んだ帝人に、新羅は少し苦笑して、多分次もあるよ、と告げた。
「次は、帝人君の家につれてってあげてね」
もちろん、いやじゃなかったらだけど。
そう付け足されたものの、有無を言わさず熱の薬を渡されて、帝人は溜息をつくしかなかった。これでは、次に同じようなことがあったとしても新羅のところに運び込むのは難しそうだ。
「そう、何度もあると困るんですけど・・・」
「んー、臨也偏頭痛持ちでね、2・3ヶ月に一回くらいは熱だすから」
「え!?」
「まあでも、道の途中で倒れるほどひどいのはそう多く無いと思うよ」
だから君は薬を飲ませてあげればそれでいいから。と新羅は言った。だがしかし、ちゃんと臨也が自力で帝人の家までたどり着いたのは2度目のときだけで、あとはアパートの前で行き倒れが1回、休日に街中を歩いているときに急に背中から抱きつかれて、振り向いたら気を失っていたというのが1回。
そして五度目の今日、ついに雨の中行き倒れというなんのドラマだ!と言いたくなるようなシュチュエーションにぶち当たったというわけだ。
「ああもう、すぶ濡れだし重いし、貸しにしておきますからね!」
ぶつくさ言いながらも、なんとか自宅の前まで到着し、器用に臨也の体を支えつつ鍵を開けて、玄関に下ろす。少し迷ったが、びしょぬれで体に貼りつくような服を無理やり脱がし、バスタオルで全身を拭いてから、前の時無理やり臨也がおいて行ったジャージを着せた。それだって、小柄な帝人には一苦労だ。
明日筋肉痛になるかも、そんなことを思いながら、敷きっぱなしにしてあった布団に臨也を転がす。少しだけ不快そうな声が漏れたが、布団をかけてやれば鼻をすんと鳴らして、そのまま安堵したように息を吐いた。
その様子を確認して、帝人も自分の濡れた制服を脱いでハンバーにかけ、部屋着に着替える。臨也を背負っていたおかげでそんなに濡れていないのが唯一の救いだった。
雨は音もなく降り続いている。さっき手を当てた感じだと、38度くらいはありそうな熱さだった。
困ったな、と帝人は冷蔵庫の中を見つめて息を吐いた。臨也の服用する薬は強いものだから、何か食べた後に必ず、と新羅に言われている。しかし冷蔵庫の中身は空っぽで、カップラーメンくらいしか食べられそうなものがない。
病人には、栄養のあるものを。
少し考えて、帝人は財布を手にとった。近くのスーパーで買出しをしてくることにする。本当は、こんな雨の日に買い物をするのは嫌なのだが、仕方がない。
そんなに多くは食べられないだろうから、うどんあたりが妥当だろうか。卵を落として、ほうれん草もいれてやろう。めんつゆは、確かまだあったはず。あとはそう、たしか桃のゼリーを買ってあげたら喜んだ。ああいう、子どもが好きそうなものが好きなんだろうか。だったらまた買っておこう。もちろん、あとで必要経費として請求しなきゃならないから、レシートは忘れずに、だ。
頭の中にメモして、家をでる。
雨は、まだまだ止みそうになかった。





「・・・だから、なんでこうなるのかな・・・」
行き倒れアゲイン。
冗談じゃない。
スーパーで買い物をして帰ってきた帝人は、玄関の扉をあけた瞬間、凍りついた。どう見ても玄関に這ってくる途中で息耐えた、という様子の臨也が、ぐったりと転がっていたからだ。ああもう、なにこれ。
「臨也さーん?」
ぺしぺし、と頬を叩いてみたところで、意識が戻る様子もない。仕方が無いなあと息を吐いて、まず台所に買い物袋を置きにいき、手ぶらになってから臨也を抱え上げる。今までにこんなふうに室内で倒れたことはなかった。いったいどうしてこんなことになったのか。
よいせっと、臨也の脇の下に後ろから両腕を挿し込み、そのまま足をひきずるようにして布団のところまで戻る。面倒になって放り投げるように布団に寝かせたなら、小さく呻いて臨也が目を開けた。
「あ、起きました?」
「・・・帝人君・・・?」
ぼんやりと、焦点の定まらない目だ。
「病人はあまり出歩かないでくださいよ。あなたを布団に運ぶのだって大変なんですから」
「・・・それは、帝人君が悪い」
「はあ?僕はあなたの為に食材を買いに行ったんですけど?」
僕が悪いってどういう事だ!と不満げに口を開けば、臨也は熱で朦朧とした顔で、気だるげに繰り返した。
「目が覚めた時帝人君がいなかったら、意味ない」
「は?」
「俺は一番に帝人君が見たいの」
「・・・えっと、臨也さん?」
作品名:君がいいの。 作家名:夏野