地の底の湖
マホーンはその腕を強く引き寄せ、マイケルを自らの腕の中に抱き込んだ。
マイケルは現状に相当参っているようで、ろくな抵抗もせずにマホーンの腕の中に収まっている。
マホーンは優位に立った自分を実感して、ほくそ笑んだ。
目の前にある耳に唇を寄せ、マホーンは低く囁く。
「落ち着くんだ、マイケル。何をすべきかを考えろ。」
マイケルは身じろぎすらせずに、マホーンに抱かれていた。
瞬きを何度も繰り返し、マホーンの囁きに耳を傾けていた。
「相手の先を読め、マイケル。フォックスリバーから逃げだした時のように。」
マホーンの唇が、マイケルの耳たぶをかすめた。
反射的に身を震わせたマイケルは、そのまま涙のにじむ両目を、マホーンの肩に押し付けた。
涙はじわりと、マホーンのシャツに染み込んで行く。
マイケルの両手が、そっとマホーンの背に回った。
「考えるんだ、マイケル。俺の手から逃げていた頃のように。」
マイケルの腕が、ぎゅう、とマホーンの背に強く絡んだ。
マホーンはマイケルの刈り上げられたこめかみの生え際に、キスを落とした。
マホーンの青い目は地の底で、地底湖の様に輝いていた。
俺の手で、駒を進める。
俺の頭で、戦略を立てる。
俺の唇で、この男を動かしてみせる。
高揚感は薬に遥かに勝った。
薬の酩酊など、今は無用の長物としか思えない。
麻薬更生プログラムなど、ただの学級会程度の効果としか思えないほどに、マホーンにとってマイケルの存在は大きかった。
薬はいらない。この男のもたらす高揚が欲しい。
この衝動は何かに似ている。
マイケルの首筋にキスをしながら、マホーンは考えた。
浮かんで来た答えに、マホーンはこみ上げる笑いを堪えて、マイケルの唇にキスをすべく、そっと腕を解いた。