空の涙
ぽっかりと空いている臨也の席を見ながら五月蠅い雨音に耳を傾ける。
謝りに、行こう。
授業が終わってからすぐに俺は鞄を持って学校を後にした。
岸谷と門田に軽く詫びを入れ、雨の中俺は傘もささずに走っていた。
30回ほど連続でインターホンを押しまくって、漸くあいつは姿を現した。
「うるは…っ、」
右頬が腫れている所為でうまく話せないらしい。
臨也は恥ずかしそうに顔を赤く染めて俯いた。
「あがるぞ、」
と有無を言わさずに室内に入り込む。
「ちょ、」
何しに来たの、とでも言いたげな臨也を押しのけて寝室に向かう。
無理矢理臨也をふかふかの、明らかに高価そうなベッドに寝かせる。
不満そうな目でこちらを睨む臨也。
頬が腫れている為に残念ながら迫力は皆無だ。
痛々しいそれにそっと触れるとびく、と肩を強張らせた。
「痛ぇか…?」
優しい声音(のつもり)で問うと臨也は少し、肩の力を抜いて小さく頷いた。
「ごめん、な。」
痛いよな、思い切り殴ったからな。悪かった。
俺がこれまで、他人に対してこれほど謝った事があっただろうか。
思い出せる限りの中で、それは無かった。
泣きそうな顔の臨也の頭を撫でてやると臨也の大きな瞳から涙が零れた。
小さく嗚咽を漏らしながら臨也は涙を流し続けた。
そう、例えるならそれは、外の世界を包んでいる雨のように。
こいつの流す雨なら、好きになれる。
否、好きだ。
小さく震える細い肩を抱きながら俺は思った。