遠い音楽
5.愛
「イギリス~!」
「う、わっ! なんだよアメリカ、驚かすなよ!」
後ろから不意打ちをかけて抱き締めると、イギリスは悲鳴をあげながら首に巻きつけた俺の手のひらを掴んだ。
「いきなり抱きつくなっていつも言ってるだろ、このバカ!」
「お茶目なイタズラじゃないか~ジョークの通じないやつだなぁキミは」
「お前がいきなりくると重たいんだよ! 離れろ!」
迷惑そうに俺を邪険にするものの、首に回した手を振りほどきはしない。
満更でもなさそうな顔を見て、気持ちが強く高まった。
「イギリス……好きだよ?」
「は、あっ? なんだよ、急に!」
あの時、思いを言葉にして叫んでも、キミに届ききれなかった言葉たちは、
いまこうして、ようやくキミに届けることが出来る。
「好きだ、好きだ、大好きだ、イギリス~!」
「うるせぇ、ばかっ! 耳元でうるせぇつってだろ!」
何度も何度も、魔法の言葉のように唱えてきたそれは、
いまようやく、その声に力を成した。
「好きだよ、イギリスー!!」
「わかってるって言ってんだろ、恥ずかしいんだよ!」
くすぐったそうに照れて悶えるキミを強く抱き締める。
こんな風にキミとじゃれあいたくて、触れ合いたくて、
俺は、何百年もの時間をここまで走り抜けてきた。
「キミが俺のことを好きなぐらい」
「……はぁ?」
「俺も、キミを好きだよ」
「っ、なんだよ、それ……」
負けない自信があるよ。
キミが俺を大切に思う気持ちや、好きだと思う気持ちの深さと同じぐらい、俺だってキミが好きなんだ。
キミはいつも、自分の方が好きすぎるみたいな顔をするけど。俺だってキミと同じだけの時間を共に歩いてきて、それでも俺の方がキミの愛の深さに劣るって、そんなことあると思ってるのかい?
「あのな、俺はお前がガキの頃から好きなんだからな」
「それを言うなら、俺はキミと出会った頃からずっとキミが好きなんだぞ。俺の方が好きに決まってるだろう?」
「ばぁか、俺の方が上に決まってるだろ。お前の好きなんて、まだまだ俺からすると足りないぐらいなんだよ」
「まったく、イギリスはホント、否定が好きだね」
「お前も、いつまでたっても頑固は変わらないな」
軽く睨みあい、すぐに見詰め合って笑いあう。
こんなくだらないケンカさえ、今は楽しく思えるから。
「まったく…。よし、キミが俺を好きなことぐらい知ってるけど、たまには素直に聞いてあげてもいいよ」
「よし、じゃあ遠慮なく言ってやる。愛してるぜ、アメリカ」
「俺も愛してるよ、イギリス」
冗談みたいに愛の言葉を交し合って、不意に視線が合わされば唇を触れ合う。
愛に溢れた現在で、俺はようやくキミと笑いあう。
求め続けた二人の関係の確かさを、キミを抱き締める腕の中に、確かに感じながら。
END