留守居の役目
体温はじっとり、と伝い背中が汗ばむ。鼓動が早いのは屹度慶次が重いからで決して密着している訳ではない。
そう言い訳する事半刻。半兵衛の読み進める速度に慣れているのか、それともただ人肌恋しいだけなのか慶次を背中に張り付けたまま丁度本を読み終えてしまう。
背中がよけいずしりと重くなり、顔を見れば目蓋を降ろしきり眠っている。どうして人の背中にくっついたまま眠る事が出来るのか。俄に痛む後ろ頭を宥めながら、ゆっくりと横を振り仰げば其処にはぴくりとも動かぬ親友の姿。
「秀吉…ッ!?何時帰ってきたんだい?」
思わず声が裏返る。その問いに呻きはっきりと答えを返さない所を察するに、かなり前から見ていたのではないだろうか。
この、子守の様な格好をした自分を長い間見られていたのかと思えば、ぐらりと世界が揺らぎ、思わず机に突っ伏してしまった。
背中の温もりは変わらず、太平楽な寝息を立てている。