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Fahrenheit

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 ふわふわと揺れる栗色はまるでなにか小動物のようだ。たとえば栗鼠とか仔犬とか、そういう類の。
 ダッフルコートのポケットに手を突っ込みながら最後尾を歩く皆守はぼんやりとそう思った。彼の前を歩いているふわふわした小動物は椎名リカという隣りのクラスの少女で、更にその前を歩くのは葉佩九龍という同級生だ。葉佩はともかく、椎名とは同じ学年という事象以外に何の接点もない。実際、皆守は彼女と三年間同じ空間で暮らし同じ空気を吸っていたが、最近まで挨拶を交わしたことすらなかった。
 椎名リカという少女は、奇人だらけの学園内でも殊更変わった格好をしていたから名前くらいは知っていた。しかし変わっているというだけで他人に興味を抱く皆守でもない。つまり今まで皆守にとって椎名は単なる同窓生のひとりに過ぎず、それは相手にとっても同じことだろう。
 そんな皆守と椎名の間に揺ぎない接点が生まれたのはつい最近のことだ。
 その接点は名前を葉佩九龍と言う。自称《宝探し屋》、という胡散臭い男の姿をしていて、残暑の終わりに彼らの前に現れた。
 二学期が始まって一ヶ月弱という中途半端な季節に転校してきた彼は、枯葉が地面に落ちきってしまう頃には皆守にとっての唯一の親友となり、椎名にとっては心酔すべき救済者になっていた。畢竟、葉佩に必要とされれば二人とも否もない。皆守が表面上は渋々ながら頷くのに対し、椎名は小鳥が囀るように「喜んで」と微笑む、というようなスタンスの違いはあるにせよ。
 こうして草木も眠る時間に怪しげな遺跡を並んで歩いているのも、葉佩の『夜遊び』に付き合うために他ならなかった。
(何にしろ、お互い酔狂な話だな。)
 明るい亜麻色の髪の頂点を飾る黒いレースのヘッドドレスを眺めながら、皆守はゆっくりと歩みを進める。
 猫背気味の皆守が遠近法を用いても、彼女の小さな頭はかなり低い位置にあった。全体的に身体のどのパーツも皆守のそれより二回りは小さい。当然歩幅も小さく、その上かかとの高いブーツを履いているものだから、皆守は距離を詰めすぎてつかえそうになる足を度々止めなければならなかった。
 そもそも足場も悪く薄暗い遺跡の中を、ファーのついたケープコートを翻し、厚底ブーツで歩く神経が皆守にはわからない。椎名は今まで一度も「疲れた」というような不満を漏らしたことはなかったが、それでも目に見えて歩きづらそうにしていたし、実際それに気付いているらしい葉佩もだいぶペースを落としている。いつもなら自分勝手に動き回るくせに、今は時折後ろを振り向いては「大丈夫?」などと少女を気遣っていた。
 そんな風に気を遣うくらいなら最初から連れてこなければいいだろうに、と少し苦々しく思いながら、皆守はポケットの中のパイプを探った。重い金属の感触に、少しだけ心が落ち着いた時、三人は扉の前に辿りついた。重厚な扉の向こうには魂の井戸があることは経験則からわかった。
 葉佩が振り返り、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「少し疲れちゃったから、休憩して行きたいんだけど」
 今夜はクエストが目的だったから、本来の葉佩ならぎりぎりまで休息したりはしない。現にどう見ても元気の有り余っている男が、椎名の為にささやかな嘘をついているのは一目瞭然だった。
 しかし椎名も葉佩の気遣いには気づかぬふりをして「はいですの」としずしず頷く。前を歩く少女が僅かに足を引き摺っていたのに気付いていた皆守は苛立ちを隠しきれずに舌打ちしながらも、否とは言わなかった。

作品名:Fahrenheit 作家名:カシイ