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君に巡る季節

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キミに巡る季節
「今年の桜も、もうすぐです」
 淡い薄紅色の蕾を実らせた枝を見上げ、日本はそっと寄り添うように太い幹に手を添えた。
「もう一月もすれば、この庭の桜は一斉に咲き誇るんですよ。その時は、ぜひまた見にいらしてください」
 添わせた手で少しだけ幹をさするように撫ぜて、瞳を閉じる。我が子の成長を祈るように、日本は嬉しそうに微笑んだ。
「日本の国花は木なんだな」
 自国の国花、薔薇を思い浮かべながら、イギリスはその違いを思う。
「菊の花もそうですけどね。桜の方が印象は強いかもしれません」
「俺のとこの薔薇は美しく儚いけど、桜は存在感が強いな」
 大きく空に枝を広げる姿は、太陽の光に照らさせて大地に影を落とし、添う者を包み込むようだ。たくましく優しい姿は、母のようであり、また父のようでもある。
「……日本の国花にふさわしいよなぁ」
「ありがとうございます。外国の方であるイギリスさんにもそう言ってもらえて、桜も誇らしいでしょう。さ、年寄りの散歩につき合わせてしまってすみませんでした、室内に戻りましょうか」
 少しだけ庭を見てきていいですか、と断り、おもむろに草履を履いたのはこの為だったらしい。
「春は手前、とはいっても、まだまだ外は冬なんですね」
 居間からも十分に見えるというのに、近づいて蕾を確かめ、その手で幹に触れたかったのだろう、冷たい風の吹く中、日本は薄そうな着物姿で、温かな羽織を着ていなかった。
「そんな薄着で出てくるからだろ」
 イギリスは、自分の着ていたコートを脱ぎ、日本の両肩に被せた。
「だ、大丈夫ですよ。すぐそこじゃないですか、それにイギリスさんもこれじゃ寒いでしょう」
「ウチと日本で、年間平均気温にどれだけの差があると思ってるんだ。それに、別に日本のために貸してやってるんじゃなくて、俺が貸したくて貸してるんだから、いいんだよっ」
 自分のことながら、素直に思いを口に出せない癖がついてしまっていると思う。
「……そうですか、じゃあ、お言葉に甘えて」
「あぁ。……なにが、おかしいんだよ」
 つい不器用になってしまった言葉に、日本は不愉快な表情を浮かべるどころか、何がおかしいのか口元を歪ませ、笑いをこらえているようだ。
「いや……」
「?」
「イギリスさんは、可愛い人ですね」
「はぁっ!?」
「実にいいと思いますよ…そういう要素は、えぇ…」
「……そ、うなのか…?」
 日本の笑いのツボはいまいちわからないと思う。いまのだって、これがフランスなら苛立たしそうにコートを地面に叩きつけていただろう。
「じゃあ、早く部屋に戻って、こたつに入りましょうね」
 さぁ、と手を差し伸べて、穏やかに微笑む。
 子どものように無邪気に笑ったかと思うと、急に大人の顔をして手を差し出す。イギリスは、日本の見せる表情の変化に驚かされた。自分より幼く見えても、やはり年長の国なんだと、思い知らされるようだ。
「…そうだな」
 差し伸べられた手を素直に取り、手をつなぐ。
 つないだ手は、とても温かかった。

作品名:君に巡る季節 作家名:せらきよ