君に巡る季節
「日本ってさ……やっぱり、すごいよな」
「は?」
暖かい室内に戻り、厚い布団で包まれたこたつに足を預けながら、イギリスは呟いた。
ちょうどいま入れたばかりの緑茶を差し出しながら、日本はイギリスの斜め横に座る。
「おもむろに、どうしました?」
「だってよぉ……何にでもよく気がつくし、細やかだし、丁寧だ。花だって、先週はまだ蕾が固かったとか、あとどれくらいの日数で咲きそうだとかよく言ってるけど、あれだってよく細かいことに気がつくなーと思うぜ。花だけじゃない、どんな物にも気を配って、敬意を持って接するだろ。そういうところが、すごいと思うんだ」
例えば、さっきの庭での話だって、と、つけ加える。
一緒にいて感じるようになったが、日本は四季の移り変わりに特に敏感だ。一月ごとに異なる行事があって、行事ごとに異なる祝い方がある日本という国。その一つ一つをすべて楽んでいるように見える。
「『大和撫子』ってやつか?」
「…使い方が違いますよ」
そもそも私は日本男児ですし、とつけ加えられた。大和撫子は女性に使われる表現で、男に使うことはないのだそうだ。
「これといって、特別なことではないんですよ、私がしていることは…そうですね、しいて言うなら『好きだから』でしょうか」
「好きだから…?」
「えぇ」
湯のみを口元に近づけて、緑茶をわずかに口に含む。一呼吸おいて、日本は続けた。
「私は、花が好きです。好きだから、つい毎日気になって、様子を見に行ってしまいます。昨日はまだ硬かった蕾が少しだけゆるやかになった。昨日まで青々としていた草木が、秋の訪れと共に少しずつ紅く染まっていく。そういう様子を見て楽しむのが好きだから、それに気づくことが出来るんですよ」
「なるほど……」
「春から夏にかけての気温の変化や、少しずつ伸びていく昼間の時間を楽しんだり、過ぎ去った季節に思いをはせながら、また巡り来る季節を心待ちにしたり…。そうして、それらの節目や季節ごとの区切りを祝う行事があり、四季の移り変わりに感謝し、次に巡る季節を迎える準備をします。すべては、四季を愛する心から来るものなんでしょうね。好きだからこそ、見ているんですよ」
また一口、緑茶を含む。湯のみを静かに下ろして、
「日本という国は、移り変わりを楽しみ、移ろいで行くものを楽しみ、巡りゆくものを楽しむ国なんですよ」
日本はイギリスの目を見て、ゆるやかに微笑んだ。
「移り変わりを楽しむ国……か」
差し出された緑茶をまだ口にしていなかったことに気づき、湯のみを口元に近づける。紅茶とは異なる、独特の風合いが鼻腔に優しく触れた。この柔らかな香りのことを、日本では『まろやか』というらしい。
静かに口に運ぶと、爽やかな草木の香りが広がり、思わず息をつく。日本人が日本茶をすすった後、幸せそうなため息をつく理由がなんとなくわかるような気がした。
「日本は美しい国だからな。お前が好きなのも、よくわかるさ」
「ありがとうございます」
珍しく素直に褒めることが出来ると、日本は嬉しそうに笑った。