二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

あとのまつり

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

音無と二人きりの校長室だった。誰もがもう既に逝った。残っているのは日向と音無、ゆり、かなで、あとは直井だけだ。ゆりはまだ目を覚まさない。かなでと直井は生徒会室を片付けに行った。今更そんなことをしても意味はないだろうと言ったのだが二人とも聞く耳を持たずに行ってしまった。多分、何かをしていたいのだろう。結局日向と音無も二人とゆりを待つだけに耐えられなくて、無言で示しあわせてこの部屋を片付けるべくやってきた。
先程からどちらも喋らない。四人でいた時はかなでを冷やかしたり直井と喧嘩したりでそれなりに騒がしかったのに、校長室に二人でくると消えていったメンバーを思ってなんだか静かになってしまう。音無が何か話してくれたらいいのにと思うが多分彼は自分より戦線の期間が長かった日向に遠慮しているのだろう。馬鹿だな、そんなのより話してくれる方がずっと楽なのに。
仕方なしにぐるりと部屋を歩く。音無はどこからか箒と塵取りを持ってきて掃除していた。皆は消える前に菓子を開きジュースを飲みここで盛大にどんちゃん騒ぎをしていたので割と散らかっていた。自分もやろうかと思ったが掃除用具の場所も思い出せなかったので諦めた。
ふと部屋の壁の一面で立ち止まる。ユイのギターが立て掛けられていた。弾いてみるかとも思ったが日向はギターの弾き方など知らない。じっと見ていると妙に心を惹かれた歌が思い出される。今思うとユイが歌っていたから惹かれただけで、それに気づくのにこんなに時間がかかるとは。
歌うのが好きなことは知っていた。でも、音無に話しているのを聞くまで生きていた頃のことなんて一つも知らなかった。いつでも聞けると思っていたし、また聞く必要も感じていなかった。
(そんなことなかったなぁ)
もっとはやく聞いておけばよかったとあの日から毎日思っている。技をかけたいとかサッカーしたいとか野球がしたいとか、そんなのはいくらでも叶えてやったというのに。大体、野球なんて音無よりも俺に頼れよ。こちとら元野球部員様だっていうのに。
日向がただ黙ってギターの側に立っていることに何か感じるものがあったのか、気づけば音無は箒と塵取りを置いて日向の近くに立っていた。
少し躊躇うようにしたあとで聞いてくる。
「やっぱり、ユイがいなくて寂しいか?」
「まあなぁ」
軽い調子を意識した。声は思ったよりしっかり出た。でも僅かに目頭が熱くなる。
(気にしない)
「馬鹿だよな、あいつ。結婚とか、したいっつうならはやく言えっての。何十回でもしてやったってのに」
「何十回も結婚してどうするんだよ。何十回も離婚するのかよ」
「重婚って奴だよ」
「重婚はそういう意味じゃない」
細かい奴だ。そう言って笑って続ける。顔がひきつった気がした。
「ほんとさ、したいってんなら野球もサッカーも結婚もなんでもしてやったのにな。もっとはやく言えってんだ。あいつとさあ、好きっつってもないしキスもしてねぇ抱き締めてもやってねぇっていうのにユイときたら結婚してやるって言っただけで逝っちまって。気がはやいだろ!ってさぁ」
おもって、と言ったところでなんだかたまらなくなった。目が熱い。頬が熱い。あーあ、泣いちゃった。
「なあ、音無」
音無は背中の向こうだ。話す姿勢じゃないとは思うが泣き顔はあまり人に見られたくなかった。
ほかのことでならいいけれど、好きな相手を思って泣いているというのは格好悪すぎる感じがして少し嫌だ。恥ずかしい。
「お前さ、かなでちゃんのこと好きだろ。多分あの子もお前のこと好きだって。今のうちだぜ、なんか言ったりなんかしたりできるの。とっとと言っちまえよ。好きっつって抱き締めてキスしてやれよ、なぁ」
部屋の隅のハルバードが見えた。野田、お前も可哀想な奴だよ。お前ときたらゆりっぺに誉められるだけで嬉しそうにしちゃって。もっと時間があったらよかったのにな。そしたらきっと。
「な、お前は、な」
音無は何も言わない。自分が格好悪すぎる気がして乱暴に制服の袖で涙を拭った。八つ当たりだなこんなの。音無を責めたいわけじゃないのにそんなことしかいえない自分に腹が立つ。
ユイは消える時泣いていたけど笑顔だった。きっかけは日向の言葉かもしれないけど音無だって間違いなく影響している。ユイが笑って逝けて日向も嬉しかったのだ。そうだ、だから本当はお礼を言わないといけないのに、それすら照れ臭い。
迷った末先に口を開いたのは音無だった。
「…日向、お前は、ちゃんと逝けるのか?」
「……はは」
お前はこの期に及んで人のことかと笑えてくる。音無は、我が侭だ。日向はなんとなくそれを知っている。そうでもなければ皆を卒業させてやろうなんてお節介はしない。まったくもって身勝手だ。でもそのおかげで皆が笑顔で逝くきっかけができたのだからそうそう怒ってもいられない。そしてこの期に及んでこいつときたら、かなでちゃんに告白する決意もできないのかよ!と少し笑えてくる。
うん、それなら。背中を押すのが親友の役目だろう。
俺たちと同じことにはならないように。
「馬鹿だな、逝けるに決まってるだろ? むしろ、はやくあいつを、追いかけてやらないと」
笑った。脳裏に浮かぶのはユイの笑顔だ。いつもの頭の悪そうな笑顔、音無と話していた時の諦観した笑顔、最期の涙ながらの笑顔。一つも忘れてない。
あいつは笑って逝ったんだから。
そう言うと音無も笑った。自信のなさそうな笑顔だ。ちゃんと言えるんだろうなとせっつくと口ごもる。初だねぇ、と自虐のように笑うと、とびきり強くはたかれた。痛いと言うと、丁度扉が開きかなでと直井がやってきた。見るなり直井が難癖をつけてくる。かなではまるで無表情だ。そのかなでを見る音無の横顔ときたら。ゆりを迎えに行こうと、誰からともなく言い出してそして部屋を出る。
扉は、日向が閉めた。最後のお別れを心中で唱えて閉める。未練がましく部屋を覗き込んでしまう日向の目に入るのは野田のハルバード、藤巻の長ドス、皆の遺したもろもろだ。その中で、ぽつんと壁に立てかけられたユイのギターと薄ら見えて絨毯を濡らす自分の涙を最後に、扉は完全に閉まった。
作品名:あとのまつり 作家名:はつえ