幽霊アパート。
俺は消えるのが怖かった。
不思議だよね、死ぬ事よりも、消える事が怖かったんだ。
だから、俺は伝える事にした。
この部屋に入居してくる人間に、俺の存在を伝えようと努力した。生前と変わらずに、人間が大好きな俺は、彼らが驚いたり、泣いたり、何かに縋ったりする姿を見るのが大好きだったから色々と利害は一致していたわけだ。あくまで、俺的には、だけど。
俺は、人間を観察するのが楽しくて楽しくて楽しくて仕方なかった。
でも、そんな暮らしが何年も――何十年も続く内に気付いてしまった。
「人間」は、俺に気付いていない。
「俺の存在」を知る者はいないのだと。
声をかければ怯えられ、触れてみれば恐ろしさに支配された顔が、見えない俺を必死に探す。
その滑稽さが面白いと、強がっていられた俺は、もうどこにも居ない。
誰かに気付いて欲しかった。
俺を真っ直ぐに見る人に、会いたかった。