幽霊アパート。
怯えきった家主が出て行ってから何度も日が沈み、季節も夏へと変わろうと言う頃
なんだかバランスが悪い二人がやってきた。
一人はドレッドで(俺が生きてた頃は無かった髪型だけど、雑誌やTVで見た事がある。むしろそこら辺の人間より、俺の方が色々な情報に詳しいかもしれないね)一見温和に見えなくもない顔だけど、間違いなく堅気の世界には生きていないのが良く分かる隙の無さも持ち合わせている。
もう一人は金髪で、サングラス。すらりとした長身に、なぜだかバーテン服。いや、ホント何で?昼間だよ、今。
「なんかこの部屋、涼しいっすね」
金髪は、見かけの涼しげなイケメンっぷりからはちょっと予想していなかった低くて良い声だった。
「そーだな。で、どうよ静雄。平気そうか?」
「トムさんの知り合いが安くしてくれるってだけで有難いんだから、贅沢は言わないっすよ」
「いや…ほら、なんだ。俺はよく分かんねぇがなんか部屋の隅に見えたりしないか?」
「平気ですよ。俺、幽霊とか信じてませんし」
『なるほどねぇ。幽霊物件ってハナシになってるんだ。ま、外れてないけどね』
「………っ…………?」
「………トムさん?どうしたんっすか?」
「いや、今…なんか声が聞こえたべ?」
「隣の音じゃないんすか?」
「気の所為…か?いや、でも確かに男の声が――
『へぇ、こっちのおにーサンは霊感ありで、こっちの彼はゼロかぁ』
「? トムさん?」
「し…ずお、念の為聞くけど…お前俺の肩、掴んでないよな?」
「っす」
「アハハハハ…だよなぁ」
ドレッドの方が泣きそうな顔で笑って、金髪はそれを不思議そうに見つめていた。
一応、二人の肩を掴んでるんだけどね。ふーん、こっちのバーテンの彼、大分鈍いね。
「静雄、悪い事は言わねぇ。この部屋はやめとけ。俺の紹介だからって気にする事なんかねぇぞ」
「? 別に俺はこの部屋で構わないっすけど。駅に近いし、安いし、あと、なんか涼しいし」
金髪は、見かけによらず意外と穏やかな性格なのかもしれない。窓から見える景色を見ながら、もう一度やっぱ涼しい、とヘラっと笑ったりするものだから目が離せない。
「それに、今の部屋、襲撃の返り討ちついでにほぼ壊しちまったんで。寝るトコないの、困るんすよね」
「………そっか。まぁ、そうだよなぁ。お前だったら幽霊に襲われても普通に勝てそうだしなぁ。よし、話つけてくるわ。でも、何かあったら絶対俺に言えよ?」
穏やか、という言葉に心の中で横線を入れながら俺は照れくさそうに頷く金髪の顔をただ、見つめていた。
「…っす」
心配される事に慣れていない様子で、はにかむように笑った顔。
あれから何度も季節が廻った今でも、俺は、――その顔が、忘れられない。