受け取らない、与えない
―――そう、長かった。今日の日に至るまで。
彼はもう、僕に欲しいものを尋ねたりしなかった。
「ヒバリさん。欲しいものがあるんですけど」
綱吉が裏の読めない笑顔で雲雀に話しかける。
ボンゴレの次代と目される沢田綱吉は、体の線の細さが嘘のように、中身がふてぶてしく成長していた。
初めてその額に火を灯した日から10年の歳月を経て、脆弱だった彼の中にくすぶっていた炎は、今や器共々磨かれて澄んだ色で美しく燃え盛り、僕の視線を捕らえてくる。
「へぇ?」
相槌を打ってやると、綱吉は益々笑みを深めて、まるで唆すように囁いた。
「くれませんか。貴方の欲しいものと引き換えで」
「僕と直接取引したいって?でも君、僕の欲しいものを知ってるの?」
「ええ。オレの想像ですが、きっと合ってると思うんです」
くすくすと笑う、それはまるで、知識の実を与えた蛇の誘惑。
甘い果実を齧らせて、雲雀から一体何を奪いたいのか。
「生意気だね。……でも、その言葉を聞くまで長かったような気がするよ」
雲雀は初めて、上機嫌に笑った。
―――さぁ、ご所望のものは?
「貴方の心を下さい」
「君の体が欲しい」
………間。
「えええぇ!? ちょっと!オレのカラダ目当てなんですかっ、ヒバリさん!?」
「煩いよ。君こそ想像ついてたんじゃなかったの?」
「少なくともジャスト『カラダ』だとは思いませんでしたよ!普通、いきなり言わないでしょう!?」
「いきなりも何も欲しいものを尋ねられたから正直に言ったんだ。責められる筋合いはないよ」
それに。
「気持ちならもう、とうに手に入れてると思うけど?」
「う……」
綱吉は言葉に詰まる。
「そういう、言い方は……卑怯です」
「どこが」
代わりに雲雀が笑う。それはそれは、嬉し気に。
「ほら、綱吉。今なら取り替えを許すけど?」
君はこれ以上何もいらないってことでいいの、と意地悪を言う。
「う~~わかりましたよ!貴方が欲しいですっ!ヒバリさん全部が!!」
「ワォ。大きく出たね。……それなら僕も君ごと貰わないと割りに合わない」
ニッと笑う、タイミングは同じ。
「取引成立です」
「成立だ」
◆ ◆ ◆ ◆
今、取引の形を取って、互いの手に握らせたのは一挺の銃。
その引金を他の誰のでもなく、この指が引くまでは。
この銃口から飛び出た銃弾が心臓に直接許しを与えるまでは。
―――倒れることは許さない。
貴方は全て私のもの。
そう易々と、死ねないと思って。
作品名:受け取らない、与えない 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)