受け取らない、与えない
それから、何年かが経って。
彼は結局、昔あれほど嫌がっていたマフィアに関わることになっていた。
僕は財団を立てていて、彼らの組織と幾度かの取引をしたことがあった。
(群れるのは御免だったが、彼らから饗される獲物はなかなかに美味しかったため、付き合っていく価値は十分にあった)
そして、もう一つは。
僕が彼個人に、興味を持ったことが大きい。
「あの……ヒバリさん」
「何?他にもまだ何あるの?」
ある日、話し合いを終え、雲雀が席を立ったところで綱吉が僕を呼び止めた。
ボンゴレ側の代表者は綱吉のみで、風紀財団側も僕だけ。(当然だ)
彼はあの日よりも些か低くなった声、落ち着いた口調で。
「何か欲しいものってありませんか?」
同じ問いを繰り返した。
「……言えば、それを君がくれるとでも?」
しかし僕は横目で一瞥をくれただけで、すぐには答えなかった。僕の問いに対する、彼の答えがわかっていたからだ。
「お約束はできませんが、出来る限りは」
……ほら。
彼が口にしたのは不確かな答えだった。口約束にさえ、ならないような。
この時には既に、僕も彼も、薄々と「それ」が何か気付いていたのかもしれない。
互いに望むものが重なるのかもしれないと思っていた。
けれど、二人ともそれが手に入るとは欠片も思っていなかった。
二人を取り巻く状況が、許さないことを知っていた。
だから、僕は告げない。
「……嫌だ。確実に手に入ると確信できないのなら、言うつもりはないよ。無駄なだけだからね」
「……そうですか。わかりました」
彼も追及することはなかった。それが正しく二人の距離だった。
作品名:受け取らない、与えない 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)