『優しさ』の作り方
「あの子は幼い時から、貴方が誰の為に戦って傷付いているのか知っていました。だから、貴方のいない時は、無事を祈り、貴方の帰る時は、貴方の役に立ちたいと、幼いながらに出来ることを探し、努力をさせたのです。」
瞬きも忘れたギルベルトの姿に、心底呆れたと言う目を向けた。
「『優しさ』は『優しさ』からだけ生まれるわけではありません。貴方がどれだけあの子に『愛情』を注いだか、ルートヴィヒは知っています。それに『優しさ』で応えることも彼は貴方との生活で学んだんですよ。そんなことも分からないのですか、このお馬鹿さんが」
ローデリヒの悪態にも言い返さず、ギルベルトは呆然としていた。そして、ようやくその言葉が脳に届くと、顔を赤くして捲し立てた。
「知ってたっつの!まあ、俺様の教育の賜物だよな!そうだよ!ヴェストがあんなムキムキで、面倒見のいいヤツに育ったのは、全部俺様のお陰だよな!」
と、何時もの調子を取り戻して浮かれ出した。
「簡単な人ですね…」
ローデリヒがまたも呆れて言うが、今のギルベルトにはまったく利かない。早計だったかと思わなくもないが、ギルベルトだけが、ルートヴィヒをあのように育てられたというのは本当のことだろう。
『それが悔しくもあるのですが…』
浮かれるギルベルトを見ながら、ローデリヒは苦笑した。
ギルベルトがルートヴィヒを自慢したがるのも分かるのだ。ローデリヒにとってもルートヴィヒは、誇らしい男だった。
嘗てはその存在を巡り、目の前の男と戦いもしたのだ。
だが、戦う理由が違った。
それが、今のルートヴィヒがルートヴィヒである所以なのだと思う。
ローデリヒは覇権を手に入れる為に戦い。ギルベルトはルートヴィヒの為に戦った。
文字通り、ギルベルトは全てをルートヴィヒに捧げたのだ。
自分には出来なかった。ローデリヒは、嘗ての戦場での姿が嘘のように、子供のようにはしゃぐ男を憧憬を込めて見つめた。
もし、という過程は考えるだけ無駄だとは思う。今になってはそれも望まないからだが。
もし、あの時ローデリヒが勝利して、ルートヴィヒが彼の物(間違いではなく、まさにそうなったことだろう)になっていたら、ルートヴィヒはもしかしたら存在しなかったかもしれない。
今のあの子を愛しく思うのなら…と目の前の騒ぐ男を見る。「ヴェスト愛してるゼーー!!」と阿呆のように叫んでいる。まったく、何処も好ましさの欠片もない。それでも
「こんなお馬鹿さんにも、感謝せねばいけないのですね…」
ローデリヒは、冷めてしまったコーヒーに口を付け、口元に浮かんだ笑みを隠した。