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老人と子供

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子供は、老人は生まれたときから老人であると思い込む。なぜなら子供が生まれた時に老人はすでに老人だからだ。
老人もまた子供はいつまでも子供であると思い込む。自分がそうであったことを忘れるからだ。
いつかは自分と同じようになることを考えない。それより先に自分の命が終わるから考える必要もない。
 子供は、儚い老いの匂いから老人を忌み嫌い、同時に哀れみ、時に尊ぶ。
老人は浅はかな子供の言動を、侮り、軽視し、しかし同時に羨望する。
 双方は同じ線の上に存在している。いつかは自分がそれになり、かつては自分もそうだった。しかし彼らはそれを忘れる。もし気付いても、同じ気持ちは持ち得ない。なぜだかわかるか?坊や。

 アルフレッドがようやくひとりで銃の手入れができるようになった頃、ひとりの老人はそう言った。アルフレッドは老人に貰った紅茶を啜りながら首を横に振った。名は知らなかったが、とてもよくしてくれた老人だった。海の向こうの話をするついでに時々こうして不思議な謎掛けをしてくる。「いいかい?」老人はとっておきのメインディッシュを披露する様に小さく笑った。けれどアルフレッドにはその顔がとても寂しそうに見えた。


「我々は永遠を持たないからだよ、ジョーンズ。全ては終わるものとして存在する。記憶も、時も、あまりに不確かなものさ。そして人の感情も」


それを忘れてはいけない。老人は酷く優しい声で囁いた。










 その日、アルフレッドは憂鬱な気分で目を覚ました。午後のスコールの中イギリスへと向かっていたが行きの機内で寝てしまい、せっかく整えた髪には再び寝癖がついていた。結局、機内食も食べずに終わった。そのせいで腹が空いてしかたがない。着いたら真っ先にハンバーガーショップだな。ジャケットの皺を伸ばしながらアルフレッドは立ち上がる。
久方ぶりの英国は自国のスコールよりも最悪な天気で、スコール程の荒々しさは無いものの分厚く覆われた灰色の雲にいつもに増して息苦しさを感じる。雨が降っていないことだけが唯一の救いだ。そう思いながらアルフレッドはジーンズのポケットからガムを取り出し口の中に放りこむ。昨日彼に電話してからこの方、不思議なもやもやが拭いきれず、歯切れの悪さを感じていた。彼に会ったらなんて言おう。ますます不愉快になるだけかもしれないけれど、とにかく彼に会いたくてしかたがない。口の中で器用にガムを膨らましながら空港のゲートをくぐると見慣れた姿が現れた。

「…よお」

たいした荷物も無かったため、ポケットに手を突っ込み歩いていると、蚊の鳴く様な(それでいて不機嫌そうな)声で呼び止められる。本当に小さなその声にアルフレッドが気付けたのは単にその声を何度も頭の中で思い起こしていたからだった。

「やあ、めずらしいね。お出迎え?」
「お前がめずらしく連絡いれてきたからな」

初冬に入ったこともあり、アーサーはダッフルコートにタータンチェックのマフラーを着込んでいた。何となく全身をくまなく眺めてからアルフレッドは胸を少しだけ張ってアーサーを見下ろす。こうして見ると彼はまるでティーンの少年みたいだった。
「えらいえらい」褒めてやるとアーサーはむっとしたように目を凝らしアルフレッドの事を睨んだ。


*

「だいたいお前は、」
「ああもうよしてくれよ来て早々」
「ちゃんと聞けよ、俺はなあ――」
会話もそこそこに空港からでると冷たい風が首元を掠め、間抜けな声を上げる。肩をすぼませ震えると、アーサーは目を丸くしてアルフレッドを見た後、小さく噴出してから自分の首のマフラーを解いた。

「お前は寒がりなんだからそれなりの服を着てこいよ」
「うう…最悪だよこの天気…」
「いいか、お前のためじゃないぞ。風邪なんてもんをひかれたら困るのは周りの連中なんだからな。――ほら」
「……なんだいそれ」
「だから、しかたがないから貸してやるよ」
「冗談はよしてくれよ、そんなマフラーを俺がするわけないだろう」
「てめえ!」

人の好意を。アーサーが恨めしげに呟き、俯く。アルフレッドはそれだけで陽気な気分になり、「とりあえずお腹が空いたんだぞ」とその手にあったマフラーを奪い、アーサーの首に巻きなおした。アーサーは複雑そうな顔をしてからため息をつき、家まで待てよ、と呟く。彼はバスの時刻表を見ていた。家まで待ったところでどうせでてくるのはクソまずい飯にちがいない。アルフレッドは強引にその提案を却下し、自国でもなじみのハンバーガーショップへとアーサーを引きずっていった。



「おー寒い」
「だから、」
「くどいよ。君の趣味は俺の趣味じゃない。君のものは俺の嫌いなもの。それだけさ」
「なら、この店も俺の趣味じゃないし好きじゃない」

自動ドアから店内に入ると効きすぎているくらいの暖房が凍りついた体を溶かしていった。
鼻の頭を赤くしながら相変らず文句を垂れるアーサーに「だったら何も食べなきゃいい」とすばやく返し、アルフレッドはレジカウンターへと並ぶ。
自分の列の店員は可愛い上に仕事が速く、自分の順はすぐに回ってきた。幾分気分もよくなっていたので「君は何か飲む?」と後ろをふり返ってみたが、マフラーに口元を埋め両手をポケットに入れたままのアーサーは不機嫌そうな顔でこちらを睨み、無言で顔を背けた。なんだってああも可愛げがないんだろう。アルフレッドは憤慨しながら可愛らしい店員を見て「君みたいな人のためにこの国に来たかったよ」と体を傾けながら文句を言った。


 しばらくしてアルフレッドは自分が食べるトレーいっぱいのそれを持ちながら、入り口で固まるアーサーに向かって顎で合図する。「ほらこっち。ここで食べるよ」
アーサーが「テイクアウトじゃないのがありえない」という顔をしたが、アルフレッドは無視をした。しかたがないことなのだ。昨日、いや、一昨日からろくに食事をとっていない胃袋はとっくに限界を迎えていた。アーサーはそんなことはつゆ知らず、ゆっくりとした動きでアルフレッドに近づき辛気臭いため息をついた。トレーの上のシェイクを見て「またそんな冷たいものを」と呆れて言う。


*

「それで、今回お前が来た理由ってなんだよ?」

貪るようにハンバーガーを頬張るアルフレッドをしばらく眺めた後、アーサーはやっと口を開いた。コークを飲みながらしゃべりはじめるアルフレッドに「飲み込んでからでいい」と忠告して頬に手を当て外を見る。ズズズ、と下品な音を立てながらコークを飲みきり、アルフレッドはそんなアーサーの横顔を見つめた。

「別に、理由なんてないけど」
「なんだよそれ不気味だな」
「長期休暇がとれたって言っただろ?」
「バカンスならもっと南へ行ったほうがいい」

「確かにね」3つめになるバーガーを包みから取り出しアルフレッドは言う。「君も一緒に行くかい?」
相変らず横を見たままのアーサーは静かにアルフレッドを一瞥した後、目線を元に戻し「仕事があるから」と言った。そんな態度にも特別苛立たなかった自分に驚きながらアルフレッドは「じゃあしかたないね」と返す。
作品名:老人と子供 作家名:リョウコ