老人と子供
とりあえず、温かいコーヒーを飲んでお風呂に入って眠りたい。ホラーの森は恐ろしかったが、歩みの遅いアーサーを置いてずんずんと家の前へと歩いていくと、門構えや、玄関の作りは何年も前にこの地域ではない場所にあったアーサーの家と大変似ていることに気付いた。古臭いなあ、と思いながらもドアの前で身を縮めて後ろをふり返る。
「アーサー!早くしてくれよもう!」
冷たい風が首元をかすめ、情けない声をあげながら家主のことを呼ぶ。その本人は何もない空間を撫でながら「よしよし、留守番ありがとうな、寂しかったのか?そうか」とはしゃいでいる。ドアを蹴り壊したい気持ちをぐっと堪えて冷たい風に身をまかせた。
*
アーサーの家は古いもので埋め尽くされている。と、いうよりアーサーの家を構成するものは古くてはいけないという条件があるのかもしれない。そこまで考えてアルフレッドは「まったく理解できない」とつぶやいた。
「あ?なにがだ」
「君のシュミがさ」
「お前にわかられてたまるか」
「俺もわかりたくないからよかったぞー」
一足先に家へと上がりこんでいたアルフレッドは、コートを脱ぎ、乱れた襟元を直した後コート掛けへと歩み寄るアーサーへと振り返りながら答える。アーサーはてきぱきと動き回り、暖炉に火をつけたり、テーブルの上の新聞をどかしながらやっとアルフレッドへと目線を寄せた。
「紅茶がいいか?それともホットミルク?」
「コーヒー」
間髪いれずに返すと、アーサーは新聞紙を片手に中腰のまま、アルフレッドを見上げるような体勢で「あ」と間抜けな声をあげた。
「ココアならあるぞ。こういう夜はココアでもいいな」
「紅茶じゃなければなんでもいいよ」
「お前なー」
「とりあえず早くキッチンいきなよ」
ぶうぶうと文句をたらし始めるアーサーの腕をつかみ、立ち上がらせ、少々強い力で背中を押す。アーサーはアルフレッドを静かに睨んだあと、「そこ座ってろよな!」と目を吊り上げながらわめいた。