SUNRISE CITY
体内から流れる温もりは息となり、白い輪郭を描いては消える。
その吐いた吐息ですら凍っているのではないかと思えるほどの冷え込みようだった。だが、北国の友人曰く本当に寒さが過ぎたる場所では息も白くはならないというのだから、この辺りはまだまともな方なのだろう。
しかしながら、ヒートアイランド現象だの言われている東京でも真夜中にもなれば相当冷え込む。いつも夏だろうが冬だろうがユニフォーム一枚で汗だくになって身体を動かしている彼らも、各々厚手のコートなどで寒さを防いでいるし、女子マネージャー達も今日は華やかなスカートなどの衣装で着飾る事は諦めてしまったらしく長ズボンや厚手のタイツを着用して凌いでいる。そこまで冷え込む真夜中に、中学生の団体が歩き回っているのは公序良俗的に許される事ではないが、今日は大人達も大目に見てくれる日だった。
何より、一応保護者は居る。
「えっもうすぐ? 今何分よ」
「54分だけど」
「うお、マジか。俺の時計5分も遅れてる」
「こんな時に気付くなよなー」
「なんか緊張してきたっス~」
「毎年の事だけど、ワクワクしちゃうよねっ」
「一之瀬先輩、神社は始めてなんですか?」
「そうなんだよねー。大吉当てるぞ~!!」
「いや、そういうもんじゃないと思うぜ……」
「あっちゃー、五円玉無いや……」
「またかよ円堂。俺二枚あるからやるぜ」
「準備いいな」
「流石だな」
12月31日。雷門中サッカー部の面々は夜中に皆集まり近くにある大きな神社に初詣に行く事になっていた。
部員全員にマネージャー3人の大人数で、地元どころか全国規模で顔が知られている彼らは移動するたびに周囲の注目を浴びた。だが彼らはそんな事はものともせず、気にせずに神社に向かい、来るべき新年を待ち構えていた。
「そろそろじゃない!?」
「ちょ、まっ時計あわせてない!」
「こんな時に直すなよ~」
「カウントダウンしよ~!」
除夜の鐘が鳴り始めその音に気付いた既に行列を作っている参拝客がざわつきだした。その音とざわつきがいよいよ今年が終わる事を告げる。
「あけたー!」
「あけましておめでとう!」
「おめでとうございまーす」
"その瞬間"が来るとその場に居る者全てに一体感が沸いた。
新年が始まり、0時にリセットされた時計が新しい時間を刻み始めた。雷門サッカー部もその場の熱気にあわせてだれと確認せずとも祝いの言葉を言い合った。そしてしばしの間を置いて、皆の携帯がいっせいに鳴り出した。特に円堂などは耐えず受信を告げる着信音が鳴り続けた。
"あの旅"で出会った友人達が賀正メールを送ってきたのだった。吹雪らはもちろん、その中には彼らからのメールも混ざっていた。かつて敵として戦った彼らの。
「さっすが円堂、モテるな」
「そういう風丸も、携帯鳴りっぱなし」
「俺のは陸上部からが多いよ」
「うっ……リカから」
「お~。さっすが大阪ギャル。賀正メールも絵文字デコメふんだんに使っててハデだな~」
「あ、瞳子監督から!」
「まっマジっスか!? あっ俺にも来たっス!」
「監督、全員に一斉送信してるのか……」
「ご丁寧に入院してた俺らにも来てるぜ」
「律儀な人なのよ」
すると不意に前方の人垣が移動し始めた。年が明けた為参拝が始まったのだろう。
「おっ列動いた」
「え、なんかさっきまであんまり気にしてなかったけど、もしかしてこれ全部参拝客?」
「げ~……たどり着くまでどんだけ時間かかるんだろ……」
「まぁ、辛抱辛抱。これくらい試合に比べりゃどうってことないって!」
「円堂はなんでもサッカーと一緒にするよな~……」
何人かが憂いた通り、参拝するまでに相当時間がかかり途中木野らが甘酒を買ってきてくれたのでそれを飲んで寒さをしのいでもみたが、たどり着くまでには皆大分身体が冷え込んでしまっていた。しかも着いたら着いたで参拝自体はあっという間に終わってしまう。
苦労の割には実になるものが小さいので数人が脱力していたが、こんな物だろうと割り切って次の段階に出る事にした。この後は自由行動という話になった。
「お前ら、羽目はずして変な事はするなよ。ただでさえ目立つんだから」
一応保護者の名目で連れ出された響木監督が、一応、と皆に忠告だけしておいた。皆元気な返事をした後各人行き先を相談し始める。おみくじを求めに行ったり、初詣にかこつけて出店している屋台で腹ごしらえしたりと目的はそれぞれだがなんとなくメンバーも定まっているようだった。
「ん……? 円堂はどうした……?」
「そういえばさっきから居ないな。……風丸も」
鬼道も豪炎寺もこういう時は大体円堂を誘い出し、流れでその場に居合わせた者で行動しだす手筈で居た。
「二人なんかとっくにどっか行っちゃったよー? お参りして即行。まああれじゃ早く二人っきりになりたいよね」
「ん?」
「どういう意味だ?」
松野の言葉に鬼道と豪炎寺は頭上に大きな"?"を描いた。二人がどこかに行ってしまったという事はわかったが、それ以降の言葉の意味が理解出来ない。
「お前ら、こういう時だけ鈍いな」
「あの二人、ずーっと手繋いでたの気付かなかった?」
染岡が嘆息と共に呟くと、その後ろにつけくわえて半田がフォローした。
風丸は手袋をしていたのにわざわざ外していた事、繋いだ手を円堂が自分のコートのポケットに入れたりして暖かいなどと戯れていた事も、恐らくは言葉の意味をやっと理解し赤面しているこの二人は気づいていなかったのだろう。
その後鬼道は同じく初詣に来ていた帝国学園の同胞らと出くわし、雷門中の面子に断りを入れてそちらに加わって姿を消した。豪炎寺は一人置き去りにされた気分に陥ったが、感傷に浸る暇も与えず染岡や松野らが強引に引っ張っていった。まずは豪炎寺の妹、夕香の回復祈願のお守りを買いに行く事にした。
その吐いた吐息ですら凍っているのではないかと思えるほどの冷え込みようだった。だが、北国の友人曰く本当に寒さが過ぎたる場所では息も白くはならないというのだから、この辺りはまだまともな方なのだろう。
しかしながら、ヒートアイランド現象だの言われている東京でも真夜中にもなれば相当冷え込む。いつも夏だろうが冬だろうがユニフォーム一枚で汗だくになって身体を動かしている彼らも、各々厚手のコートなどで寒さを防いでいるし、女子マネージャー達も今日は華やかなスカートなどの衣装で着飾る事は諦めてしまったらしく長ズボンや厚手のタイツを着用して凌いでいる。そこまで冷え込む真夜中に、中学生の団体が歩き回っているのは公序良俗的に許される事ではないが、今日は大人達も大目に見てくれる日だった。
何より、一応保護者は居る。
「えっもうすぐ? 今何分よ」
「54分だけど」
「うお、マジか。俺の時計5分も遅れてる」
「こんな時に気付くなよなー」
「なんか緊張してきたっス~」
「毎年の事だけど、ワクワクしちゃうよねっ」
「一之瀬先輩、神社は始めてなんですか?」
「そうなんだよねー。大吉当てるぞ~!!」
「いや、そういうもんじゃないと思うぜ……」
「あっちゃー、五円玉無いや……」
「またかよ円堂。俺二枚あるからやるぜ」
「準備いいな」
「流石だな」
12月31日。雷門中サッカー部の面々は夜中に皆集まり近くにある大きな神社に初詣に行く事になっていた。
部員全員にマネージャー3人の大人数で、地元どころか全国規模で顔が知られている彼らは移動するたびに周囲の注目を浴びた。だが彼らはそんな事はものともせず、気にせずに神社に向かい、来るべき新年を待ち構えていた。
「そろそろじゃない!?」
「ちょ、まっ時計あわせてない!」
「こんな時に直すなよ~」
「カウントダウンしよ~!」
除夜の鐘が鳴り始めその音に気付いた既に行列を作っている参拝客がざわつきだした。その音とざわつきがいよいよ今年が終わる事を告げる。
「あけたー!」
「あけましておめでとう!」
「おめでとうございまーす」
"その瞬間"が来るとその場に居る者全てに一体感が沸いた。
新年が始まり、0時にリセットされた時計が新しい時間を刻み始めた。雷門サッカー部もその場の熱気にあわせてだれと確認せずとも祝いの言葉を言い合った。そしてしばしの間を置いて、皆の携帯がいっせいに鳴り出した。特に円堂などは耐えず受信を告げる着信音が鳴り続けた。
"あの旅"で出会った友人達が賀正メールを送ってきたのだった。吹雪らはもちろん、その中には彼らからのメールも混ざっていた。かつて敵として戦った彼らの。
「さっすが円堂、モテるな」
「そういう風丸も、携帯鳴りっぱなし」
「俺のは陸上部からが多いよ」
「うっ……リカから」
「お~。さっすが大阪ギャル。賀正メールも絵文字デコメふんだんに使っててハデだな~」
「あ、瞳子監督から!」
「まっマジっスか!? あっ俺にも来たっス!」
「監督、全員に一斉送信してるのか……」
「ご丁寧に入院してた俺らにも来てるぜ」
「律儀な人なのよ」
すると不意に前方の人垣が移動し始めた。年が明けた為参拝が始まったのだろう。
「おっ列動いた」
「え、なんかさっきまであんまり気にしてなかったけど、もしかしてこれ全部参拝客?」
「げ~……たどり着くまでどんだけ時間かかるんだろ……」
「まぁ、辛抱辛抱。これくらい試合に比べりゃどうってことないって!」
「円堂はなんでもサッカーと一緒にするよな~……」
何人かが憂いた通り、参拝するまでに相当時間がかかり途中木野らが甘酒を買ってきてくれたのでそれを飲んで寒さをしのいでもみたが、たどり着くまでには皆大分身体が冷え込んでしまっていた。しかも着いたら着いたで参拝自体はあっという間に終わってしまう。
苦労の割には実になるものが小さいので数人が脱力していたが、こんな物だろうと割り切って次の段階に出る事にした。この後は自由行動という話になった。
「お前ら、羽目はずして変な事はするなよ。ただでさえ目立つんだから」
一応保護者の名目で連れ出された響木監督が、一応、と皆に忠告だけしておいた。皆元気な返事をした後各人行き先を相談し始める。おみくじを求めに行ったり、初詣にかこつけて出店している屋台で腹ごしらえしたりと目的はそれぞれだがなんとなくメンバーも定まっているようだった。
「ん……? 円堂はどうした……?」
「そういえばさっきから居ないな。……風丸も」
鬼道も豪炎寺もこういう時は大体円堂を誘い出し、流れでその場に居合わせた者で行動しだす手筈で居た。
「二人なんかとっくにどっか行っちゃったよー? お参りして即行。まああれじゃ早く二人っきりになりたいよね」
「ん?」
「どういう意味だ?」
松野の言葉に鬼道と豪炎寺は頭上に大きな"?"を描いた。二人がどこかに行ってしまったという事はわかったが、それ以降の言葉の意味が理解出来ない。
「お前ら、こういう時だけ鈍いな」
「あの二人、ずーっと手繋いでたの気付かなかった?」
染岡が嘆息と共に呟くと、その後ろにつけくわえて半田がフォローした。
風丸は手袋をしていたのにわざわざ外していた事、繋いだ手を円堂が自分のコートのポケットに入れたりして暖かいなどと戯れていた事も、恐らくは言葉の意味をやっと理解し赤面しているこの二人は気づいていなかったのだろう。
その後鬼道は同じく初詣に来ていた帝国学園の同胞らと出くわし、雷門中の面子に断りを入れてそちらに加わって姿を消した。豪炎寺は一人置き去りにされた気分に陥ったが、感傷に浸る暇も与えず染岡や松野らが強引に引っ張っていった。まずは豪炎寺の妹、夕香の回復祈願のお守りを買いに行く事にした。
作品名:SUNRISE CITY 作家名:アンクウ