SUNRISE CITY
真冬の夜風が吹き込んでいるからだろうか、いつも座っているベンチも凍っているかのように冷たい。座ってみると尻から身体の芯にまで冷えがまわりそうで、円堂は一人騒いでいたが風丸が大量に持ってきていた使い捨てカイロを座布団代わりにする事でどうにか暖を取る事に成功した。それにしたって寒い。広場が高台にあるせいだろう。とにかく風が強い。昼間特訓している時と同じ場所には感じられず、この鉄塔の違う顔を見たような気がした。
ここに来た目的は一つ。鉄塔から臨む新年初の日の出を眺める事だ。
この場所は例年、元旦でも人の出入りが少ない。稲妻町随一の眺めを誇り、恐らくそこから見える日の入りや日の出は他の観光地にも劣らない絶景スポットなのだが、いかんせん高台ゆえに冷えが酷い。凍える思いをしてまで日の出を見ようという物好きはあまり居ないという事だ。
この物好きな二人はこの野望を少し前から計画していて、それも二人きりで実行しようと目論んでいた。はたして、その念願はたやすく叶ったらしく拍子抜けしてしまうくらい人影が無い。それ故に辺りは静まり返り、その静けさが寒さを一層際立てているようだった。最初は鉄塔に登ってご来光を待とうかとも言っていたが、いくら体力の有り余る男子中学生でもその愚行だけは回避せざるをえなかった。鉄塔上部はもっと風が吹き込むからだ。ありがたい事に自販機が側にあるので暖かい飲み物を飲んだり、前述の使い捨てカイロを使ったりしてやりすごしていたが、外で暖を取る方法など限られる。
誰も居ないのに律儀に稼動している街灯の下、わりとありきたりなくしゃみが響いた。
「………誰か噂してるのかな……」
円堂が紅くなった鼻を擦りながら息を燻らせて呟く。睡魔にも襲われかけているのか、言葉もおぼつかない。
「馬鹿。寒いからに決まってるだろ。やっぱ一度家に帰ってからの方がよかったんじゃないのか? お前が徹夜なんか出来るのかよ」
「俺だって徹夜くらいできるって!……多分」
「しっかりしてくれよ……まあ、こんなに寒かったら眠くても寝れないと思うけど」
「こうすれば寝れそうだけどな」
「……あーもう、そう言って本当に寝ないでくれよ」
風丸は自分の肩に乗りかかった円堂の頭に、ため息をつきながらそう言うがそれでも決して嫌がったりはしなかった。
「………風丸」
「ん?」
「ずっと、こうしたかった」
「…………うん」
「またこうやってお前と手ぇ繋げて嬉しい」
「……俺も」
「………あったかいな」
「そうだな……」
お互い片手はしっかりと繋ぎ合わせたまま離さないでいる。
温もりが混ざり合って一つになってしまいそうなほど。
「ここじゃあんまり星見えないな」
「まあ、都会だしな」
「でも、ほら」
そう言って風丸が指差した先には深夜の稲妻町が広がっていた。
なるほど眺めだけはとにかく良い。大晦日から日付を超えても人々は年始の雰囲気に酔いしれているらしく、今日は特に灯りが多く見えその分星のようにちりばめられた輝きが増して見えた。
夜明けの街は、すぐそこにあった。
作品名:SUNRISE CITY 作家名:アンクウ