SUNRISE CITY
「空が明るくなってきたな」
「なんだかんだ言って、頑張れたな! そろそろ鉄塔昇ろうぜ」
「ああ」
空が紅色の帯を纏い始めたのを見計らい、二人は鉄塔を昇った。
「うう~。やっぱ上は寒っ!」
「本当だな。顔がいてー」
「おっそろそろ太陽昇ってきた!ケータイケータイ」
墨で塗られたようだった空は段々と群青色に変わり、更に地平線の周りに紅色のグラデーションがかかって太陽がこちらに向かってきている事を示した。頭上を見上げれば未だ月が名残惜しいと言わんばかりに引かずその姿を浮かべていたが、辺りはもう町並みを見渡せるほど明るい。
円堂は隣に立つ風丸の顔を盗み見た。仄かな明かりに照らされ長い睫が一本一本煌いているように見えた。日の光がまざり紅く染まって独特の色合いになっている青色の髪はたまらなく美しかった。
「……円堂? もう日が出てくるぜ」
「ぅえっ!? ……おっおお、本当だ!」
携帯のカメラをスタンバイさせておきながらそのまま硬直している円堂を不審に思ったのか、風丸はこちらを見てご来光を告げた。慌てて視線を戻すと、太陽はすでに半分程その壮大な姿を見せはじめた。ゆっくりと時間をかけその全容を明らかにしようとする。いつも見慣れているはずの太陽が、こんなに美しかったものかと二人は嘆息した。
「………綺麗だな」
「ああ…………すっげえ、キレイだ」
太陽は地平線から姿を現し、稲妻町を明るく照らした。また新しい年が明けた。二人はまた、どちらからともなく手を握り合った。
「そういえばさ」
「ん?」
「風丸、お参りの時何をお願いした?」
「え……言うのかよ」
「いいじゃん、教えろー」
円堂に請われると風丸は困ったように笑ったが、また日の出に視線を戻した。円堂は期待を込めて見つめたが、その願いは意外なものだった。
「円堂が、ずっと元気にサッカーできますように、って」
「え……なんで俺? 自分がサッカーできるようにって願えばいいだろ」
「俺が出来ても、円堂。お前が出来なくなったら意味がないじゃないか」
「………」
その言葉に胸の奥が握り締められたように熱くなるのが解った。その締め付けられた思いそのままに風丸の身体を引き寄せ腕の中に閉じ込めた。風丸は抗わず少し頼りなさげに円堂の背に手を回してコートを握った。
「……円堂は? お願い」
「………俺はお願いしてない」
「え?」
期待を裏切るとも言えるくらい虚をつく解答に円堂の腕の中に収まったまま、風丸は首を傾げた。円堂の事だからサッカーに関する事を願掛けしたと思っていたのに。
「どうしてだ?」
「いいんだ。もう叶ったから。一番叶えたい事は叶ったから。一番側に居て欲しい人にこうやって触ってられるからな」
「……円堂」
円堂は風丸の身体を引き離すと風丸の頬に両手を当てた。
風丸は円堂の顔が近づいてくると、そのまま目を閉じて全てを受け入れた。
凍るような空気の中日の光に包まれ、お互いの温もりが混ざり合った。唇を離した後混ざり合った二人の白い息も東雲色に染まる。
ようやく二人に"夜明け"が訪れた。ずっと明ける事がなかった夜に日が差した。
一度解かれた手をまた硬く繋ぎなおして、二人は鉄塔を後にした。
作品名:SUNRISE CITY 作家名:アンクウ