省エネにご協力ください。
じりじりと照る太陽。
コンクリートジャングルは容赦なくその熱を吸収し、蓄えてしまう。
何もしなくたって暑くなる室内に、限界を訴える人々。
そう。ここはとある会社の事務所だった
「あーーーー!!暑い暑い暑い暑い」
そう叫びだしたのはドレッドヘアーが特徴的な青年。どこからともなくゴムを取り出すと、髪の毛をかきあげ高い位置で結ぶ
焼け石に水ともとらえられるその行為は、しかしながら本人にとっては焼け石に氷水くらいにはなったようだった
「トムさん、暑いって言うから暑いんすよ。あーさみぃ。まじさみぃ」
一見冷静な意見を口にしたのは、バーテン服が特徴的な金髪の青年。長めの前髪が邪魔なのか、コンコルドで止められており、バーテン服も今やかろうじて判別がつくくらいまでに着崩されている。
冷静そうに聞こえた言葉は、暑さによって消耗された体力と精神力の限界を訴えていた言葉であり、なるほど。顔をのぞきこめば今にも溶けだしそうな顔をしていた。
「部長、頭おかしいんじゃんねーの…未だエアコンつかねーなんざよぉ。…げ、しかもみてみろよ」
そういってドレッドヘアーの男――田中トムは革張りのソファにぐったり沈むと、壁にかかった温度計を指差した。
バーテン服の男――平和島静雄は、その指の見つめる先を追いかけ、げんなりとふかいため息をついた
「湿度…80%ってどんな状態っすか…」
「俺らは今、生温かいゼリーに包まれてる状態ってことだよ」
「なんすかそれ。すげー気持ち悪いんスけど」
あーだこーだいってないでエアコンをつけてしまえば済むことだと思うかもしれないが、この会社の規定として
1、エアコンは室温が28度を超えてから
2、部長の指示にて付けること
3、限界まで頑張れ
以上。
もちろん上に掛け合ったことは掛け合ったのだが、部長には「まだいける」と一蹴され、事務の女の子たちは「冷えると頭痛くなる」の一言。
そんなわけで「まだ限界ではない」暑さの事務所は、窓を全開にしてわずかばかりの熱風を取り入れているだけであった
「第一部長の机には卓上扇風機があるじゃねーか…」
「なんで俺らにはないんすかね」
「まぁ外回り組はしかたねーべ。」
ちら、と横目で静雄をみやると、いつもの無表情に近い顔だったがわずかに苛立っているように見えた。というか、暑さにまいってる顔か。
そして本格的に夏の平和島静雄を観察してみる
流れる汗
張りつくシャツ
大きく開いた胸元
ちょこんと跳ねる前髪
ここでインテリチンピラ田中トムはひらめいた。我ながらよい案だと心の中で自分をほめたたえる
「なぁ静雄、セックスしねぇ?」
ここで間。
10秒経過
15秒
20秒
「!?!??!?!!!!!!????!!!?」
23秒経ってようやく理解したその言葉に、「何を言い出すんだコイツ」というような顔つきでトムを凝視している。若干ひきつつ。
あーあ、たばこ落ちた。まだ長さのあるそれを拾い上げ時計を見やる。
タイミングはばっちり。
時計の針は12を指そうとしており、もうすぐここはだぁれもいない部屋となる。
静雄はというと、突然のトムの申し出により半ばパニックに陥っていた
もちろん、恋人であるトムとは身体を繋げることも経験済みだ。いまさら「セックスしよう」と言われたって、そんなに驚くことではない。
しかし今はいつだ。
仕事中だ。
しかも、ここは事務所じゃないか。トムさん暑さで頭やられたのか?そんな失礼なことを考えていると、がたがたと椅子を引く音や机の上を片付ける音、それに合わせて控えめなサイレンが非情にも正午であることを告げた。
「平和島さんと田中さんー最後に電気、消して下さいねー」
「あー、俺らももうすぐ行くから消しちゃってもらえるー?」
ぱちん、とむなしい音がやけに大きく聞こえたのは気のせいだろうか。
コンクリートジャングルは容赦なくその熱を吸収し、蓄えてしまう。
何もしなくたって暑くなる室内に、限界を訴える人々。
そう。ここはとある会社の事務所だった
「あーーーー!!暑い暑い暑い暑い」
そう叫びだしたのはドレッドヘアーが特徴的な青年。どこからともなくゴムを取り出すと、髪の毛をかきあげ高い位置で結ぶ
焼け石に水ともとらえられるその行為は、しかしながら本人にとっては焼け石に氷水くらいにはなったようだった
「トムさん、暑いって言うから暑いんすよ。あーさみぃ。まじさみぃ」
一見冷静な意見を口にしたのは、バーテン服が特徴的な金髪の青年。長めの前髪が邪魔なのか、コンコルドで止められており、バーテン服も今やかろうじて判別がつくくらいまでに着崩されている。
冷静そうに聞こえた言葉は、暑さによって消耗された体力と精神力の限界を訴えていた言葉であり、なるほど。顔をのぞきこめば今にも溶けだしそうな顔をしていた。
「部長、頭おかしいんじゃんねーの…未だエアコンつかねーなんざよぉ。…げ、しかもみてみろよ」
そういってドレッドヘアーの男――田中トムは革張りのソファにぐったり沈むと、壁にかかった温度計を指差した。
バーテン服の男――平和島静雄は、その指の見つめる先を追いかけ、げんなりとふかいため息をついた
「湿度…80%ってどんな状態っすか…」
「俺らは今、生温かいゼリーに包まれてる状態ってことだよ」
「なんすかそれ。すげー気持ち悪いんスけど」
あーだこーだいってないでエアコンをつけてしまえば済むことだと思うかもしれないが、この会社の規定として
1、エアコンは室温が28度を超えてから
2、部長の指示にて付けること
3、限界まで頑張れ
以上。
もちろん上に掛け合ったことは掛け合ったのだが、部長には「まだいける」と一蹴され、事務の女の子たちは「冷えると頭痛くなる」の一言。
そんなわけで「まだ限界ではない」暑さの事務所は、窓を全開にしてわずかばかりの熱風を取り入れているだけであった
「第一部長の机には卓上扇風機があるじゃねーか…」
「なんで俺らにはないんすかね」
「まぁ外回り組はしかたねーべ。」
ちら、と横目で静雄をみやると、いつもの無表情に近い顔だったがわずかに苛立っているように見えた。というか、暑さにまいってる顔か。
そして本格的に夏の平和島静雄を観察してみる
流れる汗
張りつくシャツ
大きく開いた胸元
ちょこんと跳ねる前髪
ここでインテリチンピラ田中トムはひらめいた。我ながらよい案だと心の中で自分をほめたたえる
「なぁ静雄、セックスしねぇ?」
ここで間。
10秒経過
15秒
20秒
「!?!??!?!!!!!!????!!!?」
23秒経ってようやく理解したその言葉に、「何を言い出すんだコイツ」というような顔つきでトムを凝視している。若干ひきつつ。
あーあ、たばこ落ちた。まだ長さのあるそれを拾い上げ時計を見やる。
タイミングはばっちり。
時計の針は12を指そうとしており、もうすぐここはだぁれもいない部屋となる。
静雄はというと、突然のトムの申し出により半ばパニックに陥っていた
もちろん、恋人であるトムとは身体を繋げることも経験済みだ。いまさら「セックスしよう」と言われたって、そんなに驚くことではない。
しかし今はいつだ。
仕事中だ。
しかも、ここは事務所じゃないか。トムさん暑さで頭やられたのか?そんな失礼なことを考えていると、がたがたと椅子を引く音や机の上を片付ける音、それに合わせて控えめなサイレンが非情にも正午であることを告げた。
「平和島さんと田中さんー最後に電気、消して下さいねー」
「あー、俺らももうすぐ行くから消しちゃってもらえるー?」
ぱちん、とむなしい音がやけに大きく聞こえたのは気のせいだろうか。
作品名:省エネにご協力ください。 作家名:燐華