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バッドエンドだとしても

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バッドエンドだとしても

どこかで、子供が泣いている。

気がつくとアルフレッドは地面も、空も、見渡す限り真っ白の世界にいた。ちらちらと降り落ちる白いものに触れてみると、それは雪のようだった。しかし、不思議と冷たくはない。
辺りを見渡せば、少し離れた所で子供が泣いている。ボロボロの服を着て、子供には少し長すぎるマフラーを巻き、髪も、肌も白く、今にも雪の世界に溶けてしまいそうなその少年に、どこか見覚えがあるような気がしたが、何故か思い出せない。

「どうして泣いてるんだい」
「一人ぼっちになっちゃったの。みんなと一緒にいたくて、僕、がんばったのに。みんなバラバラになっちゃった。僕の家壊されちゃったの」

涙を流しながら、悲痛な声で訴える子供の姿は見る者の同情を誘う。アルフレッドとて例外ではない。

「君みたいな小さな子の家を壊すなんて、なんて悪いやつなんだ!一体、誰がそんなことをしたんだい!?」

正義感に燃えるアルフレッドの問いに、子供はぴたりと泣くのを止め、顔を上げた。

「……ヒーローだよ」

菫色の瞳に見つめられアルフレッドは思わず息をのむ。その瞳にはもう涙は無く、あるのは純粋な怒りだけだ。
突然風が吹いた。白い風の中へ少年は飲み込まれていく。思わず手を伸ばすが、決して届くことなく、すぐに姿が見えなくなる。
唐突に少年の名を思い出す。
そう彼は、

「イヴァン!!」

伸ばした腕は空を切った。
目に映るのは見慣れた天井だった。

「くそ!」

アルフレッドは苛立ちに任せて、ベットを殴りつけた。

イヴァンが消えてからというものこんな夢ばかりみるようになった。助けを求めている彼を救えない夢。
全く、ヒーローだというのに。そこまで考えて乾いた笑いがもれる。違う、ヒーローが彼を滅ぼしたのだ。
彼はもう消えてしまったのだろうか、それともまだあの狂いそうなほど白い世界をさまよっているのかもしれない。一人で泣いているイヴァンを想像すると、なんだかアルフレッドまで泣きそうになった。

そんなハンバーガーを食べても、アクション映画を見ても、ハッピーな気分になれないある日、ひとつの電話がかかってきた。
遠くヨーロッパのおせっかいな兄、アーサーからだ。悪気が無いのはわかっているが、今はがみがみとうるさい彼の相手をする気分ではない。
切ってしまおうかと思ったが、そうすれば後々、よりうるさくわめかれるだろう。仕方なく通話ボタンを押す。

「・・・何か用かい?」
「おい、何だ、その気力のない声は。アル、お前最近調子悪いって聞いたけど、大丈夫なのか」
「大丈夫だよ、いつも通り絶好調さ」

そう答えるのは、自分でもわかるぐらいやる気の無い声だ。電話の向こうでアーサーの機嫌が落ちるのがわかる。

「おいおい、もっとしっかりしろよ。あいつもいなくなったことだし、お前はもう世界の覇者になったんだぞ」

苛立ちが胸の中に生まれる。君に何がわかる、そうアルフレッドが口を開こうとするより、アーサーが爆弾を落とす方が早かった。

「って言いたいとこだけど、まさか戻ってくるとはな。」

戻ってくる、アーサーのその言葉にアルフレッドは心臓が止まるかと思った。

「もしかして、あいつのことを気にして調子悪かったのか?安心しろよ最後はお前が勝ったんだ。たしかにあいつは強かったが、それはもう過去の話だ。はっきり言って、あいつはもうお前の敵じゃないぜ」
「ちょ、ちょっとまってくれ、君は一体何の話を……」
「あれ、知らなかったのか?まぁこういう情報が入ってくるのはヨーロッパの方が早いか。はっきり言って俺たちが死んだの、生きたのなんて普通の人間には大したニュースじゃないからな」

――イヴァンのやろうが戻ってきたらしいぜ

戻ってきた、イヴァンが。想像もしていなかった展開に頭が真っ白になる。
そのことについて対策を立てたくて電話したのだというアーサーの電話を、半分も聞かずに切り上げ、アルフレッド可能な限りのスピードで今は“ロシア”と呼ばれる国へと向かった。

勢い込んでイヴァンの家の前まで来たのはいいけれど、そこでアルフレッドはしばし途方に暮れる。
一体、自分は彼と会ってどうしようというのか。あの時のように友達になりに来たのか、それとも謝罪をしに?

――違う、そうじゃない。

胸の中に子供の泣き声が響く。とりあえずこの声を止めたいのだ。

家の中は前回と同じぐらい静かで、ひんやりとしていた。
イヴァンが戻ってきたという話は本当なのだろうか、と胸の中でアーサーに対する疑念が湧く。彼も実際には会いに行ってはいないらしいし、彼が言うには、国は誰も会いに行っては無いということだ。
トーリスや、ナターリヤは?そう聞くアルフレッドにアーサーは馬鹿にしたように答えた。

――独立したばっかなのにか?

イヴァンは戻ってきてもまだ一人なのか。そしてこれからも。その事実に胸がズキリと痛んだ。

迷うことなく寝室へ向かう。きっと彼はここにいる。何故か確信に近い思いがあった。
今回は声をかけずにそっと扉ををあける。

果たして、そこに彼はいた。

ベットの上に眠るイヴァンは驚くほど静かで、まるで息をしていないかのようだ。
自分の想像にゾッとして、顔をのぞきこむと、小さな呼吸音が聞こえ胸をなでおろす。
さて、これからどうしようか。とりあえず、彼を起こさないように気をつけながら、ベットの上に腰かける。
イヴァンと会ってどうしたいのか、その疑問の答えはまだ出ていない。
ただ彼が生きている、もう二度と会えないと思っていた彼が目の前にいる。それだけで、意味もなく幸せな気持ちになる自分がいた。
手を伸ばし、髪に触れる。さらりとした質感になぜかドキリとして、まるで熱いものに触れたかのように、手を引いてしまう。
眠る彼は今までに見たことないほど穏やかな表情をしてる。まるで人形のようだ。まだ色のついていない人形。彼の中で唯一色のついた瞳は今は閉じられていて見えない。
もしかしたら、このまま眠り続けた方がイヴァンにとって幸せなのかもしれない、そんな考えがふと胸をよぎる。けれど、アルフレッドはもう一度、たとえ憎しみの感情に晒されたとしてもイヴァンの瞳が見たかった。

「イヴァン」

思わず彼の名を呼んでしまった。虫の羽音のように幽かな声だったが、眠るイヴァンには届いたようだ。閉じられていた瞳が薄く開かれる。
夢の子供と同じ菫色の瞳と目が合い、アルフレッドの胸がドクンと大きく鼓動を響かせる。
うつろな瞳は焦点があわず、アルフレッドが目の前にいるというのに驚く様子もない。

「これは、夢?」

子供のように尋ねるイヴァンに静かに首を振る。

「現実さ。君は戻ってきたんだ」

君はまだ生きてる、そう続けようとして、イヴァンの瞳からポトリとしずくが落ちるのに気づく。イヴァンは静かに泣いていた。

「そう、そうなんだ。フフ、馬鹿みたいだね、君にあんな啖呵切って、なのに、こんな……あっさり」

泣き、笑いながら話す語尾が震える。

「戻ってきたくなんてなかった。戻ってきても、一人だ。雪の中よりずっと寒い孤独の中で生きるくらいなら、僕はこのまま消えてしまいたかった!」