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手紙:島国同盟

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「別れましょう」

ぱちん、咲きすぎた紫陽花の茎を切れば鞠の様な花々はぼとりと落ちた。昨日から降り続いた雨は、夜明け前には止んだ様で、水溜りに映る空は青く煌めいている。

何時もなら今日も雨の筈。なのにお天道様はとんだ気紛れ者らしい。

後ろの縁側に座っているアーサーが立ち上がった気配がした。何も履かずに庭に出てきたのか静かな気配がすぐ後ろで止まる。
沈黙。
この後、どう動くと言うのだろう。
手を伸ばして強引に振り向かせるだろうか。どこかに隠し持った物で傷つけてくるだろうか。
何をされても面倒なことには変わりない。行動を起こされる前に、菊はまた口を開く。

「あの時…、どうしてあなたは賛成して下さらなかったのですか」

初めは賛成していたでしょう。と、付け加え、菊はまた鋏を入れて紫陽花を落とす。小さな花が集まって、薄紫色の鞠の様な紫陽花も、咲き過ぎてしまっては切り落とすしかないだろう。切らねば、他の花に養分が行き届かない。ぼとり、今度は枝ごと断つ。

「俺だって色々あるんだ。…お前だって、どうしてあの時来なかったんだ?それに中国に対するあの要求も…」
「そうやって暈すのですね。…そう言えば、貴方はいつもアルフレッドさんの事ばかり考えていましたね。…まぁ、仕方が無い事ではありますけど…」
「話を変えるな」

分かりやすい人。話の矛先を変えれば予想した通りの言動。声も今までとは違う。
これで良い。
鳥の鳴く声、人の声。道を踏む音、動く音。外は音で溢れているのに、まるで切り取られたように、菊とアーサーの間は静まり返っていた。
後ろのアーサーが動く気配は無く、暫くして菊は溜まっていた息を吐き出した。

「ただ、貴方の隣に居たくなったんです。…だからもっと強く、力が欲しかった。そうすれば…そうすれば不平等な条約も結ばれずに済むと思ったんです」
「しかし、あれは強引過ぎる。無茶苦茶だ」
「貴方だって、他国に私よりも酷い事をしたでしょう?それに、私との同盟も所詮は利益を求め、それ故に結んだもの。所詮、自分のための駒とでもお考えになったのでしょう?まぁ、此方とて人の事は言えませんが…」

そこで一旦、言葉を止める。
ここからだ。

「はっきり言わせて頂きますと、貴方の事がもう邪魔なんですよ。アーサーさん。本当は同盟なんて結びたくありませんでした」

ぱちん。
この鋏が切っているのは本当に紫陽花なのだろうか。矢継ぎ早に、口を挟まれないように言葉を繋げて連ねていく。もっと、もっと傷つけば良い。

「おまけに何時まで経ってもアメリカアメリカ亜米利加。今なら、どうして彼が貴方から独立したのかが良く分かります。貴方はきっと昔から何一つ変わっていないのでしょうね。アルフレッドさんに同情してしまいます」

「菊」
「アーサーさん」

名前を呼んだの二人同時。
爽やかな風が二人の間を吹き抜けていく。

ぱちん。

最後の一つを切り終えて、菊は始めてアーサーの方を向けば、そこには俯き地面の一点を見つめているアーサーがいた。手は固く握られ、若干震えている。
そう。それで良い。自分が望んで作り上げた状況なのに、何故か滑稽に思えてくる。

「もう愛想も付き果てました。嫌いです。目障りです。貴方と同じ空気を吸いたくもありません。もう、来ないでください」

紫陽花を集めようにも箒を忘れていた事に気がつく。その前に鋏も置かなくては。アーサーを通り過ぎ、家の中に入る。そうだ、その前に水も飲もう。顔も洗って…そう思うと足が勝手に早くなる。


縁側から離れた台所に来た時、ぼたり、鋏を持った手に滴が落ちた。
拭っても拭ってもそれは止まらず、ますます出る一方。
アーサーの横を通り過ぎる時、小さく言った言葉が己に突き刺さる。

ぱきん。

もう切る物など無いというのに、どこからかそんな音がした。

作品名:手紙:島国同盟 作家名:老竹ヒイロ