手紙:島国同盟
拝啓 庭の紫陽花が雨に濡れ、とても色鮮やかです。
この手紙が届く頃、貴方は如何お過ごしでしょうか。私は少々咲き過ぎた紫陽花の剪定を何時しようかと、頭を悩ませている所です。
さて、アーサーさん。最近思うのですが、私達は国であり、一つ意思を持つ個人です。しかし、個人の気持ちと民意が別々の方向を向いた時というのは厄介な物だとは思いませんか。私達は国であり、しかし最終的には民意の趣くままに生きて行動しなくてはいけないと言うのに、それを私という個人が反対している。まるで私の中にもう一人の私がいるような気分になってしまします。
これは私の妄想、或いは想像の産物なのでしょうか。そうであれば良いと切に思います。
そうそう。聞いてください。ここ最近記憶の欠落が激しいのです。とうとう、私も耄碌してしまったのですかね。……まだまだ現役だと思っていたのですが、案外そうでは無いようです。お陰で、知らぬ間に事が進みます。上司達から振られる話は全て知らぬ話ばかり。それも、物騒な話ばかりで恐ろしくなってしまいますよ。
と、取りとめない私の話ばかりしてしまいましたね。アーサーさん。ここから先は耄碌した私の与太話ですが少し、お付き合いください。
私はもうすぐ、貴方の知る「本田菊」或いは「日本」ではなくなるでしょう。欠落する記憶が一日の大半になってきました。その間、私が何をしているか私は一切分かりません。大凡「大日本帝国」にでもなっているのだと思いますが。もしも、そうだとすれば……――と書きましたが、一体どうしてほしいのでしょうね。
貴方に言ったって仕方がないのに。……ただ、そう。それは私ではないと言いたいのです。だから、どうしたと言われれば、そこで終わってしまいますが。しかし、私では無い私はきっと貴方を駒の様に思い傷つけるでしょう。関係も全て利用して。それならば、この関係も全て断ち切ろうと思います。私によって貴方が悲しむんだり、傷ついた姿も見たくはありません。遅かれ早かれ貴方をそんな姿にしてしまうのなら、私が私であるうちに全てを行い断ち切ろうと思います。
全ては私の予想ですが現実にならないように願うばかりです。
この手紙が届く頃、貴方は如何お過ごしでしょうか。もしも、全て終えた後読まれているのでしたら、沢山の無礼申し訳ございませんでした。
歳を取ると言訳がましくなってしまいますね。こんな手紙を出してどうなるのでしょうね。
きっと、もう貴方を傷つけたと言うのに。ただ最後にこれだけ書かせてください。
貴方と見る世界は何よりも美しく、叶うのならばまた共に見たく思います。お身体は大切に。
さよなら。
敬具