午睡の合間に見る夢は
陽のよく中る場所。彼がそこを好んでいる事は知っていた。
だからこそ、迷わずに辿り着く事は出来たのである。花の余り無い、飾り気のない庭。……いや、庭と言うには大袈裟すぎるかも知れない。
何故ならばそこは宮廷の一番端。外界と隣接する区域だからだ。手入れは元々半分ほど放棄されており、木々は方々に生い茂り、噎せ返るほどの緑を目に焼き付ける。甘やかな花の匂いが苦手な彼が入り浸るには十分すぎる程の理由であろう、との推理だ。
此方はひたすらに慣れぬ雑務と戦っていたと言うに、この男は何故にこんな所でのうのうと日向ぼっこなぞをしているのだ。自分だって、机と真向かいに座るくらいならば、戦場で馬を駆り槍を振るうか、こんな穏やかな場所で昼寝でもしていた方がましである。
全く、理不尽だ、とパーシファルは鼻を鳴らした。
鎧を着込んでいない様子から察するに、今日は陛下に休暇でも命じられたのだろうか。思えば確かに彼は此方に亡命して来てからというもの、連日連夜、”英雄”と手合わせしてみたがる騎士達の相手をしていたから、仕様がないのかも知れない、など思わず同情めいた事を考えてしまい、頭を振る。そういう問題ではない、と考え直す。
元より自分と彼との約束は、以前から決めてあったのだから。
歩み寄り、遠くから見ていた予想通り、昼寝に興じている事が分かった。どうもこの御仁とは相性が悪い。そんな事を感じてしまい、深く溜息を吐いた。
名を呼ぼうと口を開き掛けて閉じる。かのヒトの言い難い違和感に駆られたのだ。
数度瞬きをして、意に添わないながらも英雄殿の顔を観察し、その近くへと寄っていった。
こちらの気配すら感じとれない程寝入っているらしい。常にないほど満ち足りた顔をしていた。
普段、幾ら穏やかな顔を装おうとも、裡に澱むものは消せはしない。その様な事は誰が口にせずとも了解している。彼を此方側に引きずり込んだ元凶の陛下でさえも。緊張の糸を常に張り巡らせ、陛下の身を、この国を、或いは故国を、想う彼にこれほど凪いだ表情をさせるものとは、何なのだろうか。
木々の合間を縫って風が走り抜けた。少し、甘い香りがする。恐らく城の方から乗ってきた薔薇のものであろうか。意図せず、パーシファルはあの威勢の良い主君に怒られたような気になる。声まで聞こえてきそうだ、と少し笑った。
だからこそ、迷わずに辿り着く事は出来たのである。花の余り無い、飾り気のない庭。……いや、庭と言うには大袈裟すぎるかも知れない。
何故ならばそこは宮廷の一番端。外界と隣接する区域だからだ。手入れは元々半分ほど放棄されており、木々は方々に生い茂り、噎せ返るほどの緑を目に焼き付ける。甘やかな花の匂いが苦手な彼が入り浸るには十分すぎる程の理由であろう、との推理だ。
此方はひたすらに慣れぬ雑務と戦っていたと言うに、この男は何故にこんな所でのうのうと日向ぼっこなぞをしているのだ。自分だって、机と真向かいに座るくらいならば、戦場で馬を駆り槍を振るうか、こんな穏やかな場所で昼寝でもしていた方がましである。
全く、理不尽だ、とパーシファルは鼻を鳴らした。
鎧を着込んでいない様子から察するに、今日は陛下に休暇でも命じられたのだろうか。思えば確かに彼は此方に亡命して来てからというもの、連日連夜、”英雄”と手合わせしてみたがる騎士達の相手をしていたから、仕様がないのかも知れない、など思わず同情めいた事を考えてしまい、頭を振る。そういう問題ではない、と考え直す。
元より自分と彼との約束は、以前から決めてあったのだから。
歩み寄り、遠くから見ていた予想通り、昼寝に興じている事が分かった。どうもこの御仁とは相性が悪い。そんな事を感じてしまい、深く溜息を吐いた。
名を呼ぼうと口を開き掛けて閉じる。かのヒトの言い難い違和感に駆られたのだ。
数度瞬きをして、意に添わないながらも英雄殿の顔を観察し、その近くへと寄っていった。
こちらの気配すら感じとれない程寝入っているらしい。常にないほど満ち足りた顔をしていた。
普段、幾ら穏やかな顔を装おうとも、裡に澱むものは消せはしない。その様な事は誰が口にせずとも了解している。彼を此方側に引きずり込んだ元凶の陛下でさえも。緊張の糸を常に張り巡らせ、陛下の身を、この国を、或いは故国を、想う彼にこれほど凪いだ表情をさせるものとは、何なのだろうか。
木々の合間を縫って風が走り抜けた。少し、甘い香りがする。恐らく城の方から乗ってきた薔薇のものであろうか。意図せず、パーシファルはあの威勢の良い主君に怒られたような気になる。声まで聞こえてきそうだ、と少し笑った。
作品名:午睡の合間に見る夢は 作家名:nkn