午睡の合間に見る夢は
「アーベルジュ殿、何時まで寝ている心算だ?」
腕組みをしながらようやく声を掛ける。動きに合わせて鎧がカチャカチャと硬質な悲鳴を上げる。戦場では気にならないものだが、平時にこの格好で動き回ると存外気に障る。
「…パーシファル卿か。なんだ、その格好。討ち入りでもするのか?」
薄目を開けて胡乱げにパーシファルを見上げるその男は、何故に正装をしなければならないのか、という理由に思い至らないらしい。思い切り眉を顰めて厭な表情を見せると、焦ったように意識を覚醒させたらしい、が思い出せずに一人で首を捻っている。別にこの男が困っていようがいまいが、実際問題としてパーシファルは困らないのだが、今日の予定としては困るのだ。厳密に言えば、彼を待ち望んでいる、人々が。
「今日、ブリタニアに亡命してきた者達の元へ、顔を見せに行くと言っていただろう。随分、和んでいた様子であったが、よもや忘れたとは言わせませんぞ」
「そんな事もあったな」
そういえば、等、もっともらしく顎に手を遣り、頷くアーベルジュに呆れの視線を流す。
「随分、凪いだ表情をしてらっしゃいましたな」
「あぁ、そうか?」
目を見開きながら問われ、無言で肯く。嘘を吐いた所で利は無い。
「懐かしい夢でも見ておられるのかと思いました」
見開いた顔から一転、苦い顔になる。てっきり故郷の夢を見ているのかと思っていたパーシファルは不思議そうに首を傾げた。
先程とは逆の方向から風が吹く。風が荒れているらしい湖からのものだろう水の匂いがした。
「夢など見ない方が余程眠れる。俺が見る夢など、腕の中で人の体温が無くなっていく、故郷が滅ぶ夢か、戦場で血に塗れ他人を斬っているかのどちらかだ」
夢など、見ない方が余程佳く眠れるよ。
表情を歪ませたまま、諭すように言われる。余程、己が純粋であると糾弾されているようで、パーシファルは強く拳を握った。
「ならば、望みも無いと? 夢は強く望んだものを見せると言いますでしょう」
「上を見れば空の如くに涯てが無く、下を見てもまた然り、だ」
「曖昧ですな」
余りに抽象的に過ぎるその表現に眉を顰める。理解させる事など初めから望んでいないのだろう、自嘲げに自らを嗤う。
今、何刻か、と問われたので、先ほど時計を見たときは未だ夕刻までは廻っていない、と答える。
作品名:午睡の合間に見る夢は 作家名:nkn