二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

rainy day

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
 鼻先をかすめる土埃の臭いに草木の湿った香りが混ざって憂鬱な天候の到来を告げる。
 右足を一歩踏み出して条件反射で空を見上げれば、天気の知識が無い者でも今後の予想の付く雲行き。
 大げさに眉を顰める。
 「あ〜どうにも降りそうですね〜どうします?車回してきますか。」
 護衛兼とばっちり要因のヒヨコ頭の部下があまり回らない気をまわして言うが。
 遠出をする訳でもない。
 「今現在降ってる訳でもあるまいし、面倒だこのままいく。」
 大体にしてめんどくさがりな性格の上司を甚だ不本意ではあるが理解しているハボックはそれ以上何もいわず咥え煙草を上下に動かすだけにとどめた。
 



 それからものの10分もしないうちに天から雫が大量に落ちて来た。
 「━━━多分、こうなるだろうと思ったんですよ。悪い予感だけは当たるんで。」
 「・・・貴様はな!この語の及んでうるさいぞ。」
 町の大通りに差し掛かった途端、物陰からわらわらと数人の男たちが行く手を阻むように姿を現した。
 「悪いが用なら後にしてくれないか。これからご夫人との待ち合わせでね。」
 「あ〜あやっぱこうなるんですねぇ。」
 のほほんと状況にはそぐわぬ口調で。
 「うるさいぞ、ヒヨコ」 
 「ピヨピヨ!」
 緊張感のない二人組に、取り囲んでいる連中もだんだんとイラついてきたようだ。 
 リーダー格の男が声を荒げる。
 「何をごちゃごちゃと。大人しくしろ!我々に付いてきてもらおうか。」
 

 お決まりの台詞にうんざりした。
 「おい、ヒヨコ狗とかしろ。」 
 ただでさえ不快指数が高まっているというのに。
 「なんですか、そのネーミング撤回を要求します!」
 拳銃を突きつけられているにもかかわらず、二人の態度は変わらない。
 それが勘に触ったのか、一発の銃弾がロイの足元を掠めた。
 「脅しじゃないんだぜ?」
 ヤニ下がった嘲笑に反吐が出そうだ。
 「なるほど、貴様たちが冗談が好きというのは判った。こんな街なかで銃を撃つとは。」
 「マスタング大佐、一緒に来てもらおうか。」
 ぴくりと眉が上がる。
 「・・・なるほど?私を誰だかわかっての狼藉と言う訳だ。」
 「ははぁ、雨降ってますもんねぇ。━━━━イッ!」
 横の狗に蹴りを一発入れて。
 いい具合に全身濡れて来た。
 ポケットに入れているエモノもまた然り。
 「そんなわけだ。後は頼むぞ。」
 言うが早いかロイは自分の上着を投げつけて一瞬の目くらまし。
 「だから車回そうって言ったんですよーーーーーーー!」
 文句を言いつつハボックはフルオートの銃を構え連射。
 的確な狙いで数名を撃沈。
 交錯する銃弾はロイの上着と路地、店の壁を掠めた。
 


 穴の開いた軍服の上着を拾い上げて。
 「あ〜あ使い物にならなくなったじゃないか。どうしてくれる。」
 胸ポケットに入っている銀時計だけを抜いて後はロープに錬成した。
 「おい、ヒヨ狗!後は任せた。」
 「更に短く変になってますよ!!ちゅーいぃぃぃ!!」
 ━━━助けて!!もうこのひと嫌です。
 ハボックの心からの叫びだった。
 八つ当たりの仕方から言って相当に機嫌が悪いらしい。
 こちらも憂さ晴らしに無頼の輩をふん縛っているとすたすたと何事もなかったように大佐が歩き出していた。
 「ちょ、大佐ーーーーさっきの今で一人歩きせんでくださいよ!」
 あわてて近くの店から電話を借りて司令部へ連絡して応援を呼ぶがすでに上官の姿はなかった。



 

 上着を脱いでいるためシャツが肌に直に触れるとすぐに身体の熱を奪っていく。
 しかし今更傘をさす気にはなれずいた。
 さて、狗も巻けたようだし、目的地に向かう途中手ぶらなのも恰好がつかないのでとりあえず花でも見繕うとあたりを見回すと。
 軒先に出ている鉢植えたちをせっせと店にしまっている少女が目に付いた。
 「お嬢さん、花を包んでもらえませんか?」
 雨なのに傘もささずにぬれ鼠の軍人を見て一瞬驚いたようだったが、顔をみて笑顔を見せてくれた。
 身振りでどの花がいいかと問われて、会いに行く彼女の好きだった色を選んだ。
 この少女は耳が聞こえないので手のひらに指で文字を書きこちらの意図を伝えると恋人に贈るものかと聞かれて苦笑した。
 否と返すと心持ち頬に朱が混ざるのを見て、ほほえましい気持ちになった。
 あの少年と同じくらいだろうに、もうすでに女性の片鱗を見せている。
 ふと頭をよぎる真っ赤な残像。
 それを払拭するように前髪をかき上げると器用にまとめられた花束を渡される。
 店の奥に脚を悪くした老婆とその孫で店を切り盛りする小さな店だった。
 少し多めの駄賃を手に握らせると受け取れないと返されるが。
 「何時も花ばかり綺麗にするのは悔しいだろう?髪を結うリボンでも買いなさい。」
 と、告げると真っ赤になって俯く姿がいじらしい。
 「ついでに店主にはひざかけでも。」
 つぼみの花が綻ぶように笑う少女は徐に店の奥へ入りひとつの傘を手にして戻ってきた。
 使えという事なのだろうが。
 生憎ともうすでに手遅れだ。
 しかし少女は指先で花が可哀想だと伝える。
 繊細な心を持っている少女は将来素敵な女性になるのだろう。
 面影が今から会いに行く彼女に似ている気がして複雑な気分だった。


 
 
 花弁を伝う雫は艶めかしいが、大量の雨粒に弱いのも事実で。
 「ありがとう。」
 ゆっくりと音にする。
 唇の動きで伝わるように。
 そうして頭を撫でて感謝の気持ちをさらに伝えた。
 命一杯手を振られて見送られ傘の布に弾かれる雨音を聞きながら歩みを進めた。



 東方司令部より徒歩数十分の小高い丘にある、様々な形の大きな石が均一に並べられてる場所。
 芝生で覆われた整地されてるような場所ではないがそこだけは綺麗に手入れされているようだった。
 「久しぶりだ。クリス、ヴィラ。」
 せっかくの少女の気遣いだったが供え物として雨ざらしになっては仕方が無い。
 早く土に還って彼女のもとに届くといいが。
 ブレス家の当主だった級友とその奥方の眠る場所。
 あの事件以来何となく脚が遠のいてしまって居たがこの時期には必ず訪れるようにしている。
 贖罪か戒めか。


 クラスター・ブレス、ヴィラは士官学校時代の級友だった。
 クリスとヴィラは恋人同士で。
 病死してしまった彼女そっくりな人形に何のいたずらか魂が宿り私に会いに来た。
 彼女の気持ちもわかっていたがクリスの手前答える訳にもいかず。
 ちょっとした歯車がかみ合わなかっただけで。
 ブレス家の当主だったクリスはその事件で命を落とした。
 家柄を最優先する貴族共は一族の墓に入れることを由とせず共同墓地への埋葬になった。
 お家騒動の早期解決を図って弟に家督を相続させたがそれではおさまらなかった親族もいたのだろう。
  
 


 しばらくその場に立ち尽くしていたが、置いてきてしまった部下の事を思い出して踵を返した。
 「さて、どういい訳を考えようか。」
 青筋を立てて怒っているであろう部下を思い浮かべ決して肌寒さからではない悪寒がした。
 まぁいいさ。
作品名:rainy day 作家名:藤重