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あの城には河童が棲むというのだが。

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「パッカは助け方が少し乱暴だったね。バッキーがびっくりしちゃったじゃないか」
「え、そんなことないですよ…っ!パッカ君ありがとう、本当に俺、助かったよ」
 椿は隣に座っていたパッカに礼を言うと、パッカは黒目がちの大きな、表情の変えられない瞳でじっと椿を見つめると、間を詰めて緑色をした水かきのある丸い大きな手でぎゅっと椿の肩を抱いた。まるでチームメイトの力強いスクラムのように。
 そして、宝物を見せる時のようにこっそりと、もう片方の手に握る何かを椿だけに見せてくれた。
 イエローカードだった。 






「…俺とパッカ君と一緒にこれ食べてて…」
 椿は2回言った。
 そして俯くと、全てを省略した。
「パッカ君が海が見たいそうで…帰りました…さっき…」



 村越は押し黙った。
 赤崎は黙っていられなかった。
「待てよ。パッカってカレー食べるのか」
「え」
 弾かれたように椿は顔を上げた。
「中の人見たのか」
「いえ、パッカ君でした」
「あの黄色のくちばしみたいな口から?カレーを?」
「え、さあ…でもカレーあげて…なくなってるし…」
 そして尋問は村越からと続く。
「食べているところを見たのか?」
 椿は真っ白になって止まった。
 そういえば見てなかった。それでもパッカ君はいつのまにかきれいに平らげていたのだ。
 赤崎は思い切り顔をしかめた。
「椿、お前なに見てたんだよ。中の人の写メ撮ればよかったのに」
 パッカ君を動かす中の人。それはETUの選手たちにさえ謎だった。代々引き継がれる謎の一つだ。ちなみに広報室は質問が来ても「中の人なんていません。パッカ君はパッカ君です。隅田川からいつも応援してくれてるんですヨ☆(「よろしくネ」パッカ君より 好物はあげまんじゅう)」と会報にもマスコット紹介記事を載せている。
 身内にぐらいこっそり教えてくれたっていいじゃないか、と、もし中の人の謎を解明できたら選手たちの間ではきっと伝説になれると言われていた。前に石神が追いかけていた。だがある日ぱったり辞めてしまったのだという。
 それ以来、熱心なハンターはいない。
「でもパッカ君でしたから…」
「だから頭脱いで食べてた瞬間がきっとあったって。まったくなに見てたんだよ」
「はは…そうです、ね…」
 本当になにを見ていたのだろう。手の中の皿がなんだかとても重くなった。
「それより椿、ジーノが帰ったのはついさっきか?」
 頷くと、村越は「パッカは戻ってもらうぞ。マスコットだ」と両手にカレーを持ったまま踵を返した。駐車場に向かうのだ。思わず赤崎も椿もその背中を追いかけた。



 スカルズはETUのサポーターだ。その応援スタイルは熱くハード、そしてロックだ。強面揃いのETU一筋に応援し続ける猛者たちの名前、それがスカルズだ。
 こんな昼日中のなごやかなファン感謝デーでは日陰の身だ。
 地域の老若男女が群れ集い、楽しくETUと触れ合う、そんな場にハードでロックな(以下略)スカルズは不似合いだ。ETUの印象に間違いがあってはならない。
 だからリーダー・羽田はトレードマークのサングラスを外した。髪も立てずにシックに決めてみた。
 ETUのタオマフは外せないが。
 これで普通にETUサポーターだ。スカルズの皆もリーダーだとは見抜けまい。
 ちなみにスカルズは抜け駆けは禁止の掟があった。
 だが、この姿でミスターETU、村越にサインをもらうのだ。あと握手も。
 握手も。
 考えるだけで羽田の心は急に熱くなった。
 いつだって見ている。声援を送っている。でも本人を前にするのは別だ。
 考えるだけで、名前を叫びたくなる。
 敷地内に一歩踏み出し、一番にぎやかなクラブハウス前に向かう途中で、羽田は曲がり角で走ってきた集団に危うくぶつかりそうになった。
 思わず羽田はわっと声を上げたが、相手の先頭は軽いフットワークで羽田とぶつかるのを避けて、「すまない」と足を止めた。羽田はもっと声を上げそうになった。いつだって声援で叫んでいる名前の持ち主で、あやうくその習慣で叫び出すところだった。
 彼の敬愛するミスターETUこと村越だったのだ。
 
 口をぱっくり開けた羽田を見て、ぶつかりそうになったことが想像以上に驚かせてしまったのだと思い、村越は再度すまない、と羽田に言った。羽田のタオマフに気付いて、ファン感謝デーに足を運んでくれたサポーターであることに気がついた。
 そして、手に持っていたカレーを一皿差し出した。
「良かったらこれを。クラブハウス前にほとんど集まっているはずだ」
「え!」
「食ってくれ。じゃがいもが特におすすめだそうだ」
 羽田は震えだしそうな両手でそれを受け取った。
「いつも応援をありがとう」
「こ、こちらこそ…!」
 羽田の顔が輝いた。
 若手二人が足踏みしながら、コシさんと叫んだ。「早くしないと王子とパッカ君が」とせわしない。
「行ってくれ、ミスターETU!」
 羽田は事情はよくわからないが、急いでいるらしいという空気を察した。
「応援ならまかせてくれ…!」
 村越はふと、この目の前の人物をよく見知っている気がしたのだが、羽田がいつもの姿とかけ離れていて思い出せなかった。
 ありがとう、と言ってミスターETUは駆け去った。若手の二人もぺこりと頭をさげて挨拶しながら後に続いた。 

 E-TU!のチャントだけが3人を追いかけた。

 そして祭りはこれから、しばらく続く。