歪み、その2。
朝。
妙な圧迫感を感じて、僕は起きた。
「んー」
僕の体に何かが纏わりついていた。
その正体は。
「音無」
がいん!!
僕は音無の頭を思い切り殴る。
「でぇぇぇぇ!!」
音無は起きた。
「いててて…なんだ、って…」
音無は何度か瞬きをする。
僕にあろう事か抱きついていた事実に漸く気づき。
そして。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫んだのは僕じゃない。
音無だった。
「お、俺、本当にこれの人になったのかよ…」
音無はぼこぼこに腫れた顔を撫ぜながら、呟く。
ちなみに20発ほど殴ってやった。
「うるさい、とっとと着替えろ」
「副会長、何で、俺と寝ていたんだ?」
「忘れたのか?昨日の晩、あのまま僕に抱きついたまま寝たのは貴様だろうが」
昨日の銃撃戦が余程怖かったのか、
音無は僕を放してくれなかった。
折角ベッドを申請したのにこれでは無駄であった。
「そうか…ごめん。それとありがとう、傍にいてくれて」
「貴様が放してくれなかっただけだ」
音無の笑顔から僕は目を逸らした。
「でも、副会長、何だか体、柔らかくなかったか?」
「…」
「何というか…女の子みたいな…」
「バカか、貴様」
「そうだよな。うん、副会長が女の子のはずないよな。あははは、はぁぁ…」
音無は最後は盛大にため息を吐いていた。
「本当にバカだな、貴様は」
「え?副会長、何か言ったか?」
「いや、何でもない。僕は着替える。貴様も着替えろ」
「あ、ああ」
音無は僕から視線を逸らす。
僕も音無から視線を逸らし、着替えた。
数分後、僕は制服に身を包んでいた。
鏡の前に立ち、乱れがないかチェックをする。
帽子を被ると落ち着いた。
「音無、着替えたか?」
「ああ」
「学食に行く、出るぞ」
「…ああ」
僕と音無は部屋を出た。
学食は昨日の晩の騒動など、なかったかのように。
昨日の朝と同じ風景を僕に見せた。
「ライブ、やっていたんだよな…」
音無が呟く。
「ああ、連中は陽動でライブを行い、NPCから食券を奪う」
「別に食べなくても死なないんだろ。何故、そんな事をするんだ?」
「確かに死なないが、空腹感はいつまで経っても解消されないからだ」
「それは辛いな」
「音無、僕は席を取っておく」
僕は音無に金を渡す。
1人分より多く。
「貴様と同じものでいい」
「副会長、お金、多くないか?」
「釣りはいらない。貴様の好きなものを頼め」
「駄目だ。俺、ちゃんと払うから」
「貴様が正式に生徒会に入った祝いだ。素直に受け取れ」
「…そういうことなら…、でも、今度、副会長に何か奢るから」
「ああ、楽しみにしている」
僕はすたすたと歩いて、席を確保した。
そして、音無を待つ。
音無は器用に2人分の食事を持ってきた。
「今日は洋食か」
オムレツ、サラダ、パンと、見事なまでに洋食の朝御飯だった。
音無のも、同じである。
ただ1品、僕の方が多い。
フルーツセットが追加されていた。
「音無、これは?」
「奢ってくれたお礼。副会長、甘いもの、似合いそうだったから」
「似合う?」
僕は思い切り眉間に皺を寄せる。
「表現が適切ではないな」
「いや、副会長には、どうも甘いものを食べさせたくなる」
「貴様、まだ殴られ足りないのか?」
「うっ」
音無が回復し、綺麗になった頬をガードする。
僕はため息を吐いた。
「いい、折角の貴様の好意だ。受け取ってやろう」
「ありがとうございます」
ぺこりと音無が頭を下げた。
「でも、副会長、綺麗だから、モテるんじゃないか?」
「神だから当然だ」
「その性格がなければ、もっとモテると思うけど…」
音無は心底、勿体無いと言わんばかりの表情を僕に向けた。
失礼な男だ。
「誰かに好意を持たれても邪魔なだけだ」
正直な感想を音無に言う。
そう、愛されても、この空虚さは埋められない。
「そうか…」
音無は寂しそうな表情を僕に向けた。
「なぁ、音無」
「ん?」
「僕が貴様を好きだと言ったら、どうする?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
音無が顔を真っ赤に染めた。
「はは!冗談だ」
「からかうな、副会長」
「やはり断るか?」
「…わからない」
「ここは普通、気持ち悪いからすぐ断るとか言うところだろう」
「俺…副会長の事、嫌いじゃないから」
どきりと胸が跳ね上がった。
音無は真剣な目で僕を見ていた。
「出会ってから3日しか経過していないのにか?」
「ああ」
「よっぽどのお人よしだな、貴様は」
「どうして?それを言うなら、副会長の方がよっぽど優しい」
「僕が貴様を利用しようとしているとか考えた事はないのか?」
「利用しようとしているのなら、そんな事は言わないだろ」
「ほぅ…」
「とにかく、俺は、副会長の事、信じてる」
バカだ、こいつは。
ちょっと優しくしただけで、全面的に信用するなんて。
でも、僕は…この信頼を失いたいと思わない。
「音無」
「ん?」
「もうそろそろ授業だ」
「うわっ、食べないと…」
僕と音無は急いで、朝食を食べて、授業を受けた。
全ての授業が終了した。
「副会長、今日の仕事は?」
音無はぐったりとした表情で、尋ねる。
まだ、真面目に受けている振りをして、実はサボっている事に慣れないらしい。
「今日はない」
「え?」
音無の顔がぱぁっと明るくなる。
「今日は生徒会長が不在だ。だから、僕達は自由に行動していい」
「そうなんだ…それじゃあ、副会長、遊ぼうぜ」
「遊ぶ?」
「そう、俺と副会長が遊ぶんだ」
「どこで?」
「え、ええっと、そういえば、ここって、店とかないのか?」
「ないな、学園内は広いが遊戯施設はない」
「皆、何をしているんだよ、放課後」
「部活動をしたり、勉強をしたりしている」
「うぁー」
「言っておくが部活にも入るなよ」
「消滅するからだろ」
「そうだ」
「副会長は今まで放課後、何していたんだ?」
「…」
僕は目を細める。
今まで、生徒会の仕事をしていなかった時は、
NPCに暴力を振るっていた。
そうしないと、この世界で存在を保てないからだ。
だが、今はそれをしたくなかった。
音無にそんな姿を、見られたくなかった。
「ごめん…なんか、辛そうだ…」
音無が申し訳なさそうな表情で僕を見ていた。
「いや、なんでもない。…僕は体を鍛えていた」
「え?」
「体術、銃の訓練、しようと思えば何でもある。本を読んでいてもいいしな」
「2人でいるのに、それはつまらないだろ。今日は休もう。この学園を色々見てみたい」
「広いだけで普通の学園と変わりはないぞ」
「いいよ。副会長といるだけで楽しいから」
「…貴様、僕が好きなのか?」
冗談半分で聞いてみる。
「ああ」
意外と音無は真剣な目で僕を見ていた。
「副会長といると、どこか安心する」
「それは最初に僕が貴様を保護したからだろう」
「それだけじゃないと思う。副会長、口調は厳しいけど、どこか優しいところ、あるから」
「…世辞ばかりだな、貴様は」
「お世辞じゃないよ、俺の本当の気持ち」
「…」
「行こう、副会長」
音無は僕に手を差し伸べる。
僕はその手を掴んでいた。
そして、僕と音無は学園内を歩き回った。
別にイベントがあるわけじゃない学園の風景は退屈なはずなのに、
音無といるだけで、心がどこか弾んだ。
妙な圧迫感を感じて、僕は起きた。
「んー」
僕の体に何かが纏わりついていた。
その正体は。
「音無」
がいん!!
僕は音無の頭を思い切り殴る。
「でぇぇぇぇ!!」
音無は起きた。
「いててて…なんだ、って…」
音無は何度か瞬きをする。
僕にあろう事か抱きついていた事実に漸く気づき。
そして。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫んだのは僕じゃない。
音無だった。
「お、俺、本当にこれの人になったのかよ…」
音無はぼこぼこに腫れた顔を撫ぜながら、呟く。
ちなみに20発ほど殴ってやった。
「うるさい、とっとと着替えろ」
「副会長、何で、俺と寝ていたんだ?」
「忘れたのか?昨日の晩、あのまま僕に抱きついたまま寝たのは貴様だろうが」
昨日の銃撃戦が余程怖かったのか、
音無は僕を放してくれなかった。
折角ベッドを申請したのにこれでは無駄であった。
「そうか…ごめん。それとありがとう、傍にいてくれて」
「貴様が放してくれなかっただけだ」
音無の笑顔から僕は目を逸らした。
「でも、副会長、何だか体、柔らかくなかったか?」
「…」
「何というか…女の子みたいな…」
「バカか、貴様」
「そうだよな。うん、副会長が女の子のはずないよな。あははは、はぁぁ…」
音無は最後は盛大にため息を吐いていた。
「本当にバカだな、貴様は」
「え?副会長、何か言ったか?」
「いや、何でもない。僕は着替える。貴様も着替えろ」
「あ、ああ」
音無は僕から視線を逸らす。
僕も音無から視線を逸らし、着替えた。
数分後、僕は制服に身を包んでいた。
鏡の前に立ち、乱れがないかチェックをする。
帽子を被ると落ち着いた。
「音無、着替えたか?」
「ああ」
「学食に行く、出るぞ」
「…ああ」
僕と音無は部屋を出た。
学食は昨日の晩の騒動など、なかったかのように。
昨日の朝と同じ風景を僕に見せた。
「ライブ、やっていたんだよな…」
音無が呟く。
「ああ、連中は陽動でライブを行い、NPCから食券を奪う」
「別に食べなくても死なないんだろ。何故、そんな事をするんだ?」
「確かに死なないが、空腹感はいつまで経っても解消されないからだ」
「それは辛いな」
「音無、僕は席を取っておく」
僕は音無に金を渡す。
1人分より多く。
「貴様と同じものでいい」
「副会長、お金、多くないか?」
「釣りはいらない。貴様の好きなものを頼め」
「駄目だ。俺、ちゃんと払うから」
「貴様が正式に生徒会に入った祝いだ。素直に受け取れ」
「…そういうことなら…、でも、今度、副会長に何か奢るから」
「ああ、楽しみにしている」
僕はすたすたと歩いて、席を確保した。
そして、音無を待つ。
音無は器用に2人分の食事を持ってきた。
「今日は洋食か」
オムレツ、サラダ、パンと、見事なまでに洋食の朝御飯だった。
音無のも、同じである。
ただ1品、僕の方が多い。
フルーツセットが追加されていた。
「音無、これは?」
「奢ってくれたお礼。副会長、甘いもの、似合いそうだったから」
「似合う?」
僕は思い切り眉間に皺を寄せる。
「表現が適切ではないな」
「いや、副会長には、どうも甘いものを食べさせたくなる」
「貴様、まだ殴られ足りないのか?」
「うっ」
音無が回復し、綺麗になった頬をガードする。
僕はため息を吐いた。
「いい、折角の貴様の好意だ。受け取ってやろう」
「ありがとうございます」
ぺこりと音無が頭を下げた。
「でも、副会長、綺麗だから、モテるんじゃないか?」
「神だから当然だ」
「その性格がなければ、もっとモテると思うけど…」
音無は心底、勿体無いと言わんばかりの表情を僕に向けた。
失礼な男だ。
「誰かに好意を持たれても邪魔なだけだ」
正直な感想を音無に言う。
そう、愛されても、この空虚さは埋められない。
「そうか…」
音無は寂しそうな表情を僕に向けた。
「なぁ、音無」
「ん?」
「僕が貴様を好きだと言ったら、どうする?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
音無が顔を真っ赤に染めた。
「はは!冗談だ」
「からかうな、副会長」
「やはり断るか?」
「…わからない」
「ここは普通、気持ち悪いからすぐ断るとか言うところだろう」
「俺…副会長の事、嫌いじゃないから」
どきりと胸が跳ね上がった。
音無は真剣な目で僕を見ていた。
「出会ってから3日しか経過していないのにか?」
「ああ」
「よっぽどのお人よしだな、貴様は」
「どうして?それを言うなら、副会長の方がよっぽど優しい」
「僕が貴様を利用しようとしているとか考えた事はないのか?」
「利用しようとしているのなら、そんな事は言わないだろ」
「ほぅ…」
「とにかく、俺は、副会長の事、信じてる」
バカだ、こいつは。
ちょっと優しくしただけで、全面的に信用するなんて。
でも、僕は…この信頼を失いたいと思わない。
「音無」
「ん?」
「もうそろそろ授業だ」
「うわっ、食べないと…」
僕と音無は急いで、朝食を食べて、授業を受けた。
全ての授業が終了した。
「副会長、今日の仕事は?」
音無はぐったりとした表情で、尋ねる。
まだ、真面目に受けている振りをして、実はサボっている事に慣れないらしい。
「今日はない」
「え?」
音無の顔がぱぁっと明るくなる。
「今日は生徒会長が不在だ。だから、僕達は自由に行動していい」
「そうなんだ…それじゃあ、副会長、遊ぼうぜ」
「遊ぶ?」
「そう、俺と副会長が遊ぶんだ」
「どこで?」
「え、ええっと、そういえば、ここって、店とかないのか?」
「ないな、学園内は広いが遊戯施設はない」
「皆、何をしているんだよ、放課後」
「部活動をしたり、勉強をしたりしている」
「うぁー」
「言っておくが部活にも入るなよ」
「消滅するからだろ」
「そうだ」
「副会長は今まで放課後、何していたんだ?」
「…」
僕は目を細める。
今まで、生徒会の仕事をしていなかった時は、
NPCに暴力を振るっていた。
そうしないと、この世界で存在を保てないからだ。
だが、今はそれをしたくなかった。
音無にそんな姿を、見られたくなかった。
「ごめん…なんか、辛そうだ…」
音無が申し訳なさそうな表情で僕を見ていた。
「いや、なんでもない。…僕は体を鍛えていた」
「え?」
「体術、銃の訓練、しようと思えば何でもある。本を読んでいてもいいしな」
「2人でいるのに、それはつまらないだろ。今日は休もう。この学園を色々見てみたい」
「広いだけで普通の学園と変わりはないぞ」
「いいよ。副会長といるだけで楽しいから」
「…貴様、僕が好きなのか?」
冗談半分で聞いてみる。
「ああ」
意外と音無は真剣な目で僕を見ていた。
「副会長といると、どこか安心する」
「それは最初に僕が貴様を保護したからだろう」
「それだけじゃないと思う。副会長、口調は厳しいけど、どこか優しいところ、あるから」
「…世辞ばかりだな、貴様は」
「お世辞じゃないよ、俺の本当の気持ち」
「…」
「行こう、副会長」
音無は僕に手を差し伸べる。
僕はその手を掴んでいた。
そして、僕と音無は学園内を歩き回った。
別にイベントがあるわけじゃない学園の風景は退屈なはずなのに、
音無といるだけで、心がどこか弾んだ。