愛に生きて
親父が死んだ。
去年の暮れ、戦で。
いつも追い求めてて、子供のころはそれこそ雲をつく様に果てなく高く感じていた体は、小さくなって棺に収まって帰ってきた。
死化粧を施した顔を一度だけ見て、あとは棺の傍に座していた。
一度だけ見た親父の死に顔は、俺や公瑾を叱り飛ばしていた顔とは、別人のようだった。
俺は、親父がもうそこには居なくって、せっかちなあの人らしくもう空にあがっているのだと、漠然と感じていた。
そうして葬儀の間中ただ、ただ、座っていた。親父すら恐れたおふくろが、泣く所をみるのは初めてだと妙なところで感嘆しながら。
俺は親父が死んだことよりも、そっちのほうが哀しかった。
あわただしいばかりだった後の処理も、ひと段落して、俺は休むばかりになった。
何の作法か知らないけれど、親が死んだあと三年は派手なことは慎んだほうがいいらしい。
親父が持っていたはずの「力」というものを全く失ってしまった俺にとっては、それのほうが儘、都合がよかった。
このまま袁術の下に仕官するにしても、どこか他のものに仕えるにしろ、俺はまだ若すぎたし、状況が状況だけにおいそれとは動けない。
とりあえずの身の振り方を考えるに、このくらいの時間の開き様は、かえって都合がよかった。
葬儀の後、栓を抜いたようになっていたお袋も、一か月もたつと元通りになっていた。幼い弟、妹たちもそれなりに元気を見せるようになってきた。
徐々にだが、全ては親父が居たころと変わらないようになった。公瑾だけが、忙しくってうちにこられないが、それでも暇を見つけては以前と変わらず
家に顔を出しては、いろいろと話をした。
全ては穏やかで、変わりがなく、茫洋とした中で俺は漠然とこれが永遠のものだと思った。
そう思っていた。