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レッドとグリーンとゴールドのはなし。

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ひとつ、グリーンのはなし。




 いつのことだったか。

 そう、あれは確か、ジムリーダーになって半年くらいのことだったように思う。幼馴染にチャンピオンの座を奪われ、燻ぶっていた期間が約半月。それから更にひと月の間を置いて、トキワジムのジムリーダーにならないか、という要請がグリーンのに届いた。暫く悩んで、(最初は半ば渋々ながらに)ジムリーダーに就任して、ジムトレーナーの面接をして、引継ぎやら手続きやらでその頃の俺の頭はパンク寸前だった。

 そんなジムリーダーの日々がちょうど半年に突入した、ある日のことだった。


「…は?」

 ジムリーダーの仕事に慣れてきた俺は、挑戦者がいないのを良い事に昼寝に勤しんでいた。
 祖父の後を引き継ぐための博士業とジムリーダーの兼業。なかなか大変だったが、今では手馴れたものだ。隙間時間の有効活用を覚え、この年では有り得ないほどしっかりしている、とよく言われる。そんなつかの間の休息時間に、……電話が鳴った。

 最初、何を言われているのかさっぱり分からなかった。


『君はね、強すぎるんだ。それだとちょっと困るんだよ』


 長い長い電話の内容を要約すれば、「君は挑戦者に容赦が無さ過ぎる。ジムリーダーなんだから、もう少し相手を育てるつもりで手を抜いてあげてくれ。君がジムリーダーに就任してから、ポケモンリーグには人が全く来なくなった。子供の夢を奪うものではない」そんな感じだ。思い出すだけで胸糞悪い。(あれ、これでも長いか?)

 俺は挑戦者に全霊で向かっていた。
 手加減なんて一切すること無く、いつも真剣勝負だった。
 
 まあその結果として、俺がジムリーダーになってからというもの、グリーンバッジを手にする者は誰もいなかったのである。


 確かに、もしかしたら、ほんのすこーしは、俺にも非があるのかも、しれないが!(い・ち・お・う!相手を尊重してみた。が、このいらつきはどうにも収まらない!!)
 俺は少なくとも、ポケモンバトルで手を抜くなんてとてもじゃないが考えられなかった。そんなの、相手に対する最高の侮辱じゃないか!少なくとも俺が今まで戦ったジムリーダーたちは、手を抜いたりしたことはなかった。(俺が分からなかっただけかもしれないが、そんなの、表情を見れば一目瞭然であると思う)

「ああ、はい、…はあ。ええ、以後気をつけます」

 殊勝に返事をして電話を切った後、俺は大荒れに荒れて、電話機をぶち壊した。最悪だ。

 最高に苛立っていた俺は、殊勝に返事をしたが、態度を改めるつもりなんて更々無かった。(だって俺は間違っていない!)



 それから数日後、唐突に幼馴染がやってきた。何の前連絡も無しに、だ。
 その日は俺の誕生日前日だったのだが、全くそれを理解している様子は無かった。(一瞬でも誕生日祝いに来たのかと思ってしまった自分を即座に猛省した)



「グリーン、バトル」

 最後に見たときよりも幾分冷えた紅の目を携えて、レッドはそれだけ言った。
 何か不穏なものを感じた俺は、「おう」とだけ返事をした。それ以外の言葉を交わす空気など、微塵も存在していなかった。


 
 その結果は、うん、まあ、負けたわけですよ。(あっさりと負けたりはしなかったがな!あれでも結構粘ったんだ!あの化け物級を3匹まで倒した俺のポケモンたちを、褒め称えてやりたい)

「お前、前より強くなってんのな。くそー、また離されたか!」
「…グリーンは、強くなった」
「俺が?そうかぁ?」

 珍しくレッドがそんなことを言った。お世辞を言うような奴ではないから、本心から言っているのだろう。だが、余りに言われ慣れてないことを言われたので素直に受け止めることができなかった。

「俺の望みのなかで叶いそうにないのは、お前に勝つことだけだよ」

 盛大な溜息を共にそう告げれば、レッドは一瞬目を細めた。何かを考えるような、本当に些細な仕草だった。

「じゃあ、明日の朝もう一度バトルしよう」

 何がじゃあ、なんだよ。っていうか明日の朝までこっちにいる気なのか、お前。
 口から出かけた言葉は、全部出てこなかった。レッドはいつも自分のペースで生きているのだから、その問いを投げたところで有意義な返答を期待することができないのを知っていたからだ。(ああ、いい加減こいつの扱いに慣れてきた気がする。というか、俺が大人の階段を昇ったのか?)

 明日もまた盛大に負かされるんだろうなあ、と思いつつも俺は明日もレッドとバトルできることを心のどこかで喜んでいた。ジムに来る挑戦者たちとは違う、圧倒的な強者とのバトル。一瞬の判断ミスが命取りになる、そんなバトルに飢えていたからだ。
 トキワジムへの挑戦者も、俺と同じ気持ちなんだろうか。そんなことを考えつつ、俺はレッドと共にマサラへ帰った。

 
 ……そう、翌日にあんな最悪の体験をするなんて、露も知らず。