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レッドとグリーンとゴールドのはなし。

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むっつ、グリーンのはなし。




「…嫌な夢見た」

 目を開けた瞬間、最悪の夢を見ていたことを認識した。

 今まで何度この夢を見てきたか分からない。起きているときも寝ているときも付き纏う悪夢だ。そのせいで、いつまで経ってもあのときのレッドの顔が記憶に残っている。
 いつまでこんなことを考えていても埒が明かない。ソファから体を起こし、備え付けの小さな冷蔵庫へ向かった。飲みかけのミネラルウォーターを口に含めば、その冷たさで一気に目が覚める。あれは、過去の出来事だ。レッドと俺の関係が決定的に決裂した、過去。

「最近は見なくなってたんだけどなー」

 誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。
 多分原因は、以前ジムに来たゴールドという少年だろう。

 あの少年は、どことなくレッドに似ていたから。

 感情的な性格はレッドとは似ても似つかない。けれども、あのどこまでもポケモンバトルに真摯な様は良く似ていた。バトル自体もレッドを連想させて(とはいえ、まだまだあいつの足元にも及ばないものだったが)、忘れようとしている過去を突きつけられた気がした。

「くっそ、」

 舌打ちをして、ジムの外に出た。少しは気晴らしになるかもしれない。
 外は夕方に差し掛かる少し前で、日が傾き始めている。トキワシティの気候は比較的温暖で、こんな日は時間の流れが緩やかに感じる。
 室内にいるよりは心が落ち着きを取り戻すのを感じて、大きく深呼吸をした。

「やっぱり室内に篭ってばっかなのは良くねーな!」

 背筋を伸ばせば、ばきりという不健康な音。このところ家に帰らずソファを寝床にしていたせいだろう。
 今日は久しぶりにマサラタウンの実家に帰って、ベッドで寝よう。美味い夕飯を食えば、もっと気が晴れるに違いない。


 そう思って、書類を整理するために一度ジムに戻ろうとした、とき。


「久しぶり、グリーン」


 夢ではない現実の声が、後ろから聞こえた。


「なっ…」

 この声を知っている。懐かしい、昔は毎日聞いていた声なのだから。
 反射的に後ろを振り向けば、そこには予想に違わない人物が立っていた。あの日以来一度も会っていない、レッドが。

「ゴールドに負けたって、本当?」

 過去の決別などなかったように、極自然にレッドが尋ねてくる。真っ直ぐにこちらを見る目は変わらない。答えてやる義理なんてないはずなのに、俺も普通に答えてしまった。その声音は、およそ友好的とはいえないものだったが。

「本当だ」
「何で負けたの」

 間髪入れずにレッドが問いかける。(なんだ、こいつ。ずいぶんと…、)そこでようやく、俺は珍しくレッドが苛立っていることに気づいた。いつも人を気遣わないやつではあるが、今日はやけに余裕がない。言葉尻が荒い。赤い目が、鋭く鈍い光を携えている。
 ロケット団を相手にしているときは、こういう感じだったような気がする。

「グリーンはゴールドより強い」

 瞼を眇めて“観察”しながらレッドの目的について考え込む俺を見てどう思ったのかは知らないが、レッドは言葉を続けていく。昔はいつも俺ばかり話しかけていた。立場が、逆になったようだ。

「ゴールドはこれからもっと強くなるよ。でも、それはまだ先の話。今はグリーンの足元にも及ばない。それなのに、どうしてゴールドが勝ったの?」

 無口なレッドが淡々と、けれど饒舌に喋る。そんな姿を見るのは初めてだ。
 それが物珍し過ぎて、レッドの言葉が耳を通り抜けていた。久しぶりに現れて、こいつは一体何がしたいのか。だがそんな考えも、レッドの次の一言で全部吹き飛んだ。


「グリーン、バトルに手を抜いたんでしょ」


 絶句、とはまさにこのことを言うのだと、自分の頭のなかのどこか冷静な部分でそう思った。

「どうしてそんなことしたんだ。グリーンは絶対にそんなことしないって思ってたのに。なんで?」

 レッドの目が、相手を責める厳しさを含んでいる。
 畳み掛けてくるレッドの言葉を、一瞬理解することができなかった。何度も頭のなかで反芻して、理解したときには真っ白だった頭のなかが真っ赤に染まっていた。

「ねえ、グリーン」
「ふざけんな……」

 ああ、こいつは、本当に本当に何も理解していないのだ。

「お前がそれを、俺に言うのか!?」

 僅かに離れていた距離を、一気に詰め寄る。そしていつも高みから人を見下ろすような、いけ好かない目を睨み付けて、その胸倉を左手で掴んで引き寄せる。気に食わない、腹が立つ、こいつだけが、俺をこんなにも苛立たせる。

「グ、リーン…?」
「お前にだけは言われたくない。お前にだけはっ…!」

 今までの責める調子が嘘のように、レッドの声が揺れる。こいつは、変なところで勘が良いから。今更になって、俺の不穏な空気を感じ取ったのかもしれない。でも、もう手遅れだ。俺のなかに燻ぶっていた炎は一気に燃え上がって、俺自身ですら手がつけられなくなっている。レッドに対する怒りが、全てを上回っていた。

「偉そうに!お前、何様のつもりだよ!!」


 そうして気がついたときには――…、空いている右手を強く握りこんで、一切の容赦なく、感情のままにその拳をレッドの頬へと叩き込んでいた。