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戦場のボーイズラブ

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私立ドキドキ学園高校バスケ部の、インターハイ出場への切符を賭けた、地区大会決勝戦。
 キュキュ、というシューズの音と、選手達の息遣いと、否が上にも高まる緊張感が、体育館を満たしていた。時折飛び散る汗は、プリズムのように光を反射する。が、それに注意を払うことのできる人間は、殆ど存在しなかった。接戦となっている試合展開は、選手達は勿論のこと、観客にとっても手に汗握るものとなっていたのである。
 「あっ!」
 パスされたボールを、ドキ高選手が弾いてしまう。痛恨のイージーミス。ボールは、コートの外へと吸い込まれて行く。
 「させるかっ!」
 ドキ高選手の一人である真白木宇月は、持ち前の負けん気と男気で喰らい付くべく、ボールに向かって跳躍した。しかし彼の手が、それに届かんとした刹那。
 「がはっ!」
 夕日色の球体の一部は、咳と共に真白木の口から吐かれた液体により、緋色に染まった。
 ドォォン……!
 腑の底に響くような音をたて、真白木は得点板に突っ込んだ。
 凍て付いた空気の中、動くことができた人間は、たった二人だった。
 「真白木さん!」
 後輩である柴倫太郎と小城洋介が血相を変え、倒れ込んだ真白木に駆け寄った。「しっかりして下さい!」と柴は、彼を気遣いつつ、その頭を自らの膝に乗せ、微かに動く唇に耳を寄せた。
 「ボールは……友達、だ……」
 「解りました、真白木さん。みんなにもその言葉を伝えますから、安心して下さい」
 請け合った柴は勢い良く立ち上がり、叫んだ。
 「真白木さんの遺志を無駄にするな、ボールはまだ生きてる!」
 力強い柴の言葉を聞いた真白木は、安心したように微笑み、瞳を閉じた。
 「真、白木さん……?」
 意識を失った真白木に、小城が恐る恐る問い掛けるが、その目は開かれない。
 小城は、がくりと膝を折り、項垂れた。
 「もう、真白木さんは限界なんだ……真白木さん、死ぬなーっ!」
 静まり返った空間に、小城の悲痛な叫びが響き渡った。
 「ちょっと待て、縁起でもねーこと言うなよ、小城! 真白木さんはまだやれるだろうが、勝手に限界決めるんじゃねーよ!」
 苛立った様子の柴が、小城の胸倉を掴んで声を荒げる。だが、小城は力なく首を振った。
 「違う……。真白木さんからは、みんなには秘密だって言われてたんだけど、実は真白木さん……不治の病で、本当はもうバスケなんかできる躯じゃない、って医者から言われてるんだ……」
 「そんな馬鹿なこと、あるわけねーだろっ! 信じ……られねーよ……」
 真白木に視線を向けた柴の語尾が、徐々に弱くなってゆく。小城は、駄目押しのように、再び首を振った。
 ――そして、時は動き出す。
 「とにかく、救急車だ!」
 監督のルリーダが叫んだ。



 「……で。このツッコミどころのバーゲンセールみたいな物語を、オレにどうしろと?」
 小城の原稿から顔を上げた柴は、引きつった表情で書き手に問う。
 「いや、どうしろってわけじゃなくて。そもそも、オレがドキ高即売会に本出すって言ったら、お前が『どんな話だか見せてみろよ』って言ったんじゃねえか」
 「そ、そうだけどよ……」
 柴は言葉を濁し、再び原稿に目を落とす。
 作中の真白木が気を失ったのは、作中の自分が真白木を膝枕したまま立ち上がって、真白木の頭を放り出したからじゃないだろうか、とか。
 ボールは友達だ、という言葉から「ボールはまだ生きてる」などという超訳をしてみせる作中の自分は、エスパーなんじゃないか、とか。
 「縁起でもねー」と小城に怒っているが、その前に遺志という表現を使った作中の自分はどうなんだ、とか。
 そもそもフィクションであれ、自分が真白木を膝枕する場面を想像するのはぞっとしないな、とか。
 そうしたさまざまな思いが、柴の胸に去来する。
 考え込んでいる柴の沈黙を、作品に対する否定と取ったか、小城は不安げにうつむいた。
 「オレなりに、真白木さんのためを思って書いたつもりだったんだけど……やっぱりダメだよな、素人がいきなり小説なんて、無理があるよな」
 「そ、そういう意味じゃねーって! お前がダメってことじゃなくて、えーと……」
 自分の不用意な態度で、友人を落ち込ませてしまったことを知った柴は、懸命にフォローの言葉をひねり出した。
 「オレ、この続き読んでみてーよ。ある意味、先が気になるし!」
 「そうか? じゃあ、これが続き」
 「お、おう!」
 柴は、差し出された原稿を手に取った。

作品名:戦場のボーイズラブ 作家名:ゆふ