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俺と先生との恋愛過程 1

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俺と話す。
俺を怒る。
俺と笑う。
物怖じしない、そのすべての行動。

全部先生が初めてだった。





1.ぜんぶ、先生がはじめて





「アームカツク、マジぶっ殺す。すぐ殺す」
「本当にいつも君は物騒だね」
「うるせぇ」

はぁ、と溜息を吐く新羅を一睨みしたら、おおこわって大袈裟に肩を竦めて教科書を見直していた。
こういう風に普通に話しかけてくるのは良いが昔からいけ好かない奴でもあった。
あ、と新羅が声を上げて言う。左頬、血がにじんでるよ、と。
触れば確かに指に血の赤が。
よし、次の休み時間にはアイツをぶっ殺す。
アイツ、と呼ぶだけで腸煮えくり返るが、休み時間、と思ったあたりまだ冷静みたいだ。



キンコーン、とチャイムが鳴った瞬間立ち上がれば、皆がビクリと肩を振るわせて怖々こっち見る。
そんな視線なんてとっくに慣れた。
気にせず教室を出る。
途端

「あっ!」

男の声が廊下に響く。
まだ俺しか出てないから、は? なんだ? と思って振り向けば、そこには頭一つ分くらい小さな男が俺に向かって声を出したかと思うと慌てて俺に向かって走ってきた。

「怪我してる!」
「え、あ」

頬を指さされたのはさっき新羅に言われた場所で、もう血は乾いてると思うが、早くきて、と腕を引かれてしまう。
よく見たら男は白衣を着ていて、まさか保健医とか言わないよな、と乾いた笑いが出る。
どう考えても俺より下にしか見えない。
そんなことを考えてたらいつの間にか保健室の前まで連れてかれていた。
どうやらマジで保健医らしい。

「早く椅子座って」
「は、はぁ」

椅子に座らされて傷の手当てをされた。
思った通り傷はあるけど血は止まっていたらしく、薬を塗って終わった(凄く切れ味の良いナイフかなんかで切ったみたい、と言われたのは間違いなかったが、曖昧に返事した)
……どうも調子狂う。
こんな普通の扱いを受けたのは自分の力を認識してから初めてだった。

「なぁ、先生」
「ん?」
「俺のこと知らないんすか」
「え? あぁ、確か平和島くんだよね。平和島静雄くん」

……しかも知ってるとか。ますますわからねぇ。
俺のことを聞いているはずなのにどうしてこんなに普通に対応してくる?

「……名前」
「え?」
「先生、名前は」
「竜ヶ峰帝人だけど?」

笑顔で笑って言う先生が妙に幼くて、可愛いなと思ってしまった。





2.許されない恋でも





「あれれ、どうしたの静雄」
「あ? 何がだ」

保健室で手当てしてもらって教室に戻れば新羅がかなり驚いた顔で俺を見てきた。
その視線の意味が分からなくて新羅を一睨みしてから椅子に座れば、前の席の新羅はわざわざ椅子の向きを変えてこっち向いてきた。
本当にこいつも物好きな奴だと思う。
俺の体を知っていつか解剖させて、なんて目を輝かせていってきたくらいだし(勿論そのとき殴り飛ばしたが懲りなかった)さすがの俺もコイツヤバいんじゃないかって軽く引いたし。
まぁ、今や俺でも普通に話しかけてくる数限りない一人だけど。

「ちょっと、静雄聞いてる?」
「聞いてねぇ」
「……だから僕はこの休み時間なんにも音が鳴り響かなかったことに驚いているんだよ」
「はぁ?」
「だって出て行くときの凶暴な顔にまた授業にならないのかなぁ、なんて思ってたからね。何かあった?」
「何かって……」

あぁ、確かに忘れてた。そうだ、俺、アイツをぶっ殺そうと……なんて思った瞬間怒りが込み上げる。
けど、先生に言われたこと思い出して俺は手当を受けた傷口を軽く掻いた。

『また怪我したらおいで』

でもこんな傷でも慌ててきた奴だ、本気であいつとやり合ったらどれだけ怒られるんだろう。

「……新羅」
「え、なに?」
「保健医知ってるか?」
「え、竜ヶ峰先生? 知ってるよ。よく実験で失敗したらお世話になってるし茶飲み友達。良い人だよ」

……新羅がセルティっていう女を愛していてそれしか見えなくて、セルティしか頭にないくらいなのは知ってる。
そいつ以外を好きになることなんて有り得ないのは知ってる。
だが……なんか無性にムカついたから力を押さえてデコピンすれば、痛いよ静雄! なんて言ってきたから無視する。

「あ、それ竜ヶ峰先生に手当てしてもらったの? さすが竜ヶ峰先生だなぁ。あの人ならあんだけ静雄の話しても物怖じせずに話しかけると思ってたんだよね」
「おい待て。あんだけ、ってどんな話した」
「へ? 今までの逸話」

教科書で少し力込めて頭を叩いたら、またうるさく言われたが無視。
それより俺は先生を思い出していた。
噂だけじゃなくて新羅から話聞いてるくせにあの態度だったのかよ、本当変な奴。
確実に俺はあの先生に興味を抱いていた。
けど、これは興味なだけだ。
それ以上踏み込んじゃいけない、そう思っていた。

「先生言ってたよ」
「あ?」
「そんなにいつも怪我してるならすぐに見つけて手当てしてあげないとね、って」

……本当に変な奴。





3.追いかけるのは先生の後





「おはよう、平和島くん」

俺の靴箱の前で待ち伏せしていたらしい先生は俺を見て半ば切れてるような笑顔で笑った。

「さぁ、一緒に保健室いこうか」

そう言われて左手に刺さったままのナイフを抜き取ってすぐに用意していたみたいな布をすぐに巻き付ける。
掴まれた手に俺はどくんと心臓が鳴ったことに気づいた。





朝、またノミ虫が俺の前に現れた。
退屈で仕方ないからシズちゃんで遊びに来たよ、って、マジムカつく、殺す。
すぐさま近くにあった標識引っこ抜いて振り回して追いかけて。アイツはまたナイフを投げてくるからだんだん苛つきが治まらなくなった俺はそれを避けることすら面倒になってナイフを左手で受け止めてそのまま右手で持ってた標識を振りかぶる。
それを寸でのとこで避けたアイツは心底ムカつくって顔で笑って、早く死んでよ。とか言うから俺は笑い返した。
その前にテメェが死ねよ、って。
ナイフが刺さったまま抜いたらヤベェかなぁ、なんて思いながら学校に行ったらすぐに先生に掴まった。
さすがに新羅に頼もうと思っていただけに吃驚したけど、多分俺らのやり合いの音を聞いて待ってたんだと思う。
二回目に出会っていきなり怒ってるとかなぁ。
前みたいに俺の前を歩く竜ヶ峰先生はやっぱり小さくて、あぁ、頭撫でたいなぁ、なんて思わず思ってしまったときには掴まれていない方の手で頭を撫でてしまった。
そしたらかなり吃驚した顔で振り向く先生。
でもすぐに怒った顔を見せた。

「怪我した方の手を動かさない!」

ってそっちかよ。
そんなことを思っていたら、すぐに保健室につく。
扉を開けて中に入ってまた椅子に座ればすぐに先生が手当てをしてくれた。

「朝、凄い音がしたからもしかして、と思って待ち伏せしてて正解だったね」

包帯を巻き付けて、ほっとした顔を見せる。
……その顔の方が好きだ。

「でも本当なんでこんなに……ってごめん。岸谷くんにこの話はしちゃいけないって言われてたんだった」
「別に良いっすよ。ただアイツは俺に死んでほしいと思ってて、俺は殺す、と思ってるだけです」
「……そんな」
作品名:俺と先生との恋愛過程 1 作家名:秋海