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ライナスの毛布と愛着理論

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世間話をするような気楽さで告げられた言葉に、しかし千馗は二の句が告げない。真っ赤になって絶句する千馗の頭をぽんぽんと叩いた燈治は、よし、と小さく呟いて勢い良く立ち上がると、千馗に片手を差し出した。
「帰ろうぜ」
「あ、・・・・・・・・うん」
一瞬、その手を取って良いものか否か迷ったものの、思考が答えを弾き出す前に千馗の手は燈治のそれに触れていた。大きな掌が千馗の手を握り込み、ぐっと腕を引かれる勢いで立ち上がり――立ち上がった勢いのまま、燈治にぎゅうと抱き締められる。逃げる間もなく抱き取られた千馗は眼を白黒させたが、燈治の顔を伺おうにも圧し掛かるように肩口に伏せられた彼の表情を見ることは出来なかった。
痛いほどに抱き締められて、千馗は驚きの余り咄嗟に秘法眼を発動しそうになる。情報の塊である人間を直視することは普段は避けているものの、余りにも理解不能な事態の連続に頭がついていかないのだ。燈治が何を考えているのか、何をしようとしているのかがわからない――それに少しの恐怖を覚えたのは何故なのだろう。
しかし千馗が額の中央に意識を集中するより早く、耳朶に暖かく湿った吐息が触れた。
「・・・・俺、結構独占欲強いんだって、さっきので思い知ったわ」
「――――――――」
確かめるように囁かれて、千馗は大きく眼を見開いた。無論、集中しかけていた意識など瞬時に拡散してしまい、視界はいつもと何ら変わりのない夜空を呆然と見上げるばかり。
果たしてどう答えれば良いのだろうかと思案しつつ、千馗はふらりと持ち上げた両手の行き場を必死に探す――但し、その片手には、あのバンダナを握ったまま。



果たして燈治の背中に触れて良いものか否かと悩みつつ、千馗は辺りに人気が無くて良かったと、心の底からつくづく思った。

作品名:ライナスの毛布と愛着理論 作家名:柘榴