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それでも皮肉なことに世界は終わらないし終われないのだ

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 目を覚ますと、なんだか血の匂いがした。
 状況確認をしようと顔を上げれば、赤いマントをはためかせたスプレンディドがこちらを見ていた。パーカーやスラックスに大量の血を付けた姿で出血多量で死ぬのでは、と思ったものの平然と立ってるので返り血なのだろうか。
 なにをしてるんだ、と言うために口を開いたが、関節が上手く動かなかった。
「君は死に慣れていないのだったね。とりあえず無理はしない方がいい」
 そう言われてはた、と思い出す。そう言えば、フリッピーに殺されたのであった。それに加えて僕が死んだのはフリッピーを含めて最初だという事に気付く。
 身体はどことなく気怠く、身体を動かすと節々ぎしぎしと音を立てる。どうやら綺麗に蘇生は出来ないようで、死後硬直を(先程までは死んでいたが)生きながら味わっているのだらう。
「君は、スプレンディド、だ」
「そう、私は君に殺されかけたスプレンディドなのだよ」
 手を腰元に当てて胸を張るように言う彼に、申し訳ない気持ちでいっぱいである。手違いで人を殺してしまう事が多々ある彼だけれども、基本的には善人でヒーローなのだ。もし僕じゃない僕が彼を傷付けたと知ったら、僕に対して怒る人がいるかもしれない。
「僕が、殺し掛けた? でも、僕は殺されて、……どういう事だ」
「的を射ているような、ズレているような。君を一応は、殺したのだからね」
 仕方なかったのだ、とどこか釈明めいたように呟いた彼は、しゃがんでる僕に視線を合わせるように座り込んだ。切り裂かれまくり、マントの形を保ってるのが不思議としか思えないそれをはためかせて。
「僕が君に殺された? それは違う、僕はフリッピーに殺されたんだ」
「フリッピーに殺された? フリッピーは君じゃないか軍人くん」
 首を傾げられ、あ、と思わず言葉を漏らした口を押さえる。彼は血塗れの上に座るのが憚るのか、リボン結びにされた紐を解いてマントを脱ぎ、地面に広げてからその上に胡座をかいていた。
「……それもそうだな。でも仕方ないじゃないか、本当にそのままなのだから」
 インディゴブルーの瞳が射抜くようにこちらを見てきた。深い海のような色をしたそれは、戦場で向けられる怨嗟の目よりも鋭く尖っていて、まるで矢のように僕の事を突き刺してくる。
「勿論知ってるよ。君は二重人格で、今、私の前にいる君がホスト人格なのだろう? もう一人の君と、先程話をしたからわかるものの、本来は信じられやしない事だがね」
「フリッピーと話を?」
「粗雑な君、覚醒した君のナイフを避けながら少しばかりね。どうやら覚醒くんは君を殺すつもりではなかったらしいのだよ、ただ少し気絶して眠って欲しかっただけで。俺がフリッピーを殺したのは、テメェがいたからだ! と訳のわからない言葉を吐いていたのだが、どういう訳かね?」
 マントの端に括り付けられた紐をリボン結びにしては元に戻す、という手遊びをしながら英雄は首を傾げてきた。けれど自分にも理解出来る訳がなくて(僕自信の事なのに)黙りこくれば、スプレンディドは僕の頭を撫でてきた。酷く生暖かい手だ、その理由は撫でていない反対側の手で明らかで、真っ赤な命に染まったいた。そして、無くってしまっていた帽子を被らせてくれた。
「……ありがとう」
「礼には及ばないのだよ。だって私はヒーローなのだから」
 マントを丸めて回収したスプレンディドは、僕のの目の前に手を差し出し、
「軍人くん、早く帰ろう」
 と言いながら、血に塗れた姿には不釣り合いな笑みを浮かべていた。