Doubt_2
7.
事の始まりは、ザクロスに中央から出戻ってきた商家が帰ってきた事に始まる。
古くからザクロスに拠点を持ち、街道沿いの流通や仲介などを一手に握っていたモルガンにとってはそれは自らのルートを脅かす脅威でもあった。
中央で宝石商として成功したというその商家、スタンレーは独自のルートを持ち、確実にザクロスの流通経済に参画してくるとモルガンは信じて疑わなかった。
しかしスタンレーの側には何をする気もなかったというのに、何の行動も起こさない事を勝手に訝り、先に手を打とうと画策した末、結果、いもしない敵のために墓穴を掘った。
長年築き上げてきたものが、一瞬で瓦解した。
計画を後押しし、金を見返りに便宜を図ってきた地方の一大尉の更迭、を道連れに。
明けて東方司令部。
ギリギリ期日内に戻ってきたは良いが、執務室の机に積まれていた書類の山に、執務室の主は遠慮なく眉を寄せていた。
予想より山が高かったらしい。
それが、麗しの副官殿のささやかな抗議だと知っている少尉は、素知らぬ顔で手にした用紙を山の上に追加してやった。
正式な休暇届けだ。休み自体はまだ残ってるので。
何やかんやと理由をつけて却下されるんじゃないかなーとは半ば覚悟の上だが(何せ一応先日のも有休扱いになっている)一応主張だけでも。
「…しかし何でまた大人しくのこのことついて行ったんですか」
「町でその金持ちとやらのよろしくないウワサを聞いて気にはなっていてな。渡りに船だっただけだ」
「ホンモノと繋がってたらどうするつもりですか」
「ターゲットの顔も確認してないのに、確かめもせずに人を連れて行こうとするようなのがプロなわけないだろう」
素人にしてもひどすぎる。って、それは尤もなんですけど。
「しかし蓋を開けりゃ単純な話だったんだがなぁ」
主不在の間、東方司令部に様子見にやってきていたヒューズは、ソファに陣取りコーヒーを啜りつつ額をかいた。
「途中オレも話聞いてまわる時に混乱しましたもんね。捕まってる筈がの人が呑気に街中散歩してたり」
結局、とばっちりを受けただけのスタンレーの放蕩息子とやらと大佐は、別に似ていなかった。
ただ、あえて特徴を上げていくなら、黒髪、若い男、軟派な感じ,etc…と似たような事を口にする。
ようは同じように聞いても、人によっては別の者を思い浮かべてたという事だったのだが。そもそも最初の宿の店主からして勘違いは始まった。
「結局、双方ともにもともとの間違いは写真をもっていなかったからだろう。持ってったら早かったんじゃないのか?」
「だってそんな本格的に聞き込みなんかで捜索することになるとは思わなかったんで」
第一、
「何もないのにオレが大佐の写真持ってたらおかしくないっすか」
「・・・・・・。」
「・・・そこまで嫌そうな顔することないでしょ」
何だかそんな絶望的な顔とかされると、大変に不本意なんですが。休日削ってまでお迎えに行ったのに。(行かされたのに)
まーまーまー、とそこにヒューズが間に入る。
「結局、モルガンて奴が空回りしてただけだったな。道理で叩いても埃が少なかった訳だ」
そこで大人しくしておけば、しばらくはこれまで通り利権の独り占め出来ただろうに。
余分な事をして見事に火種に自分で火を点けた。
「お陰で迷惑被った。せっかくの休日が全部飛んだぞ」
「そういや結局何しにこんなとこまで」
ちらりとハボックに視線を向けると、「プライベートな質問には答えられない」とかそっぽを向いてしまう。
「どこの芸能人ですか」
即突っ込んでも、上司の鉄壁のツラの皮を揺らす事すら出来ないのは判ってる。何だかニヤニヤとしょうがないなぁとの間で笑っているらしいヒューズは事情を知っていそうだが、こちらも勿論教えてくれるはずもないし。まぁ確かにその辺興味は尽きないが、確かにプライベートな話なのであまり踏み込んでいい事でもないのでここは引いておく。
そうこうしているうちに、やはりその山を崩す事を早々に諦めたらしい上官はさっさと匙ならぬペンを投げた。
「コーヒーおかわり」
「あ、俺も俺も」
「・・・それはオレに行けって事ですかね」