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放課後セレナーデ

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「失礼します。委員長…」
「しーっ」
ノックと共に応接室の扉を開いた草壁は、信じられないものを目にした。















「───すみません、でもさっき漸く眠った所なんです」
ソファの端に腰を下ろし小さな声でそう言ったのは、ふわりとやわらかな蜂蜜色の髪の少女。
名を沢田綱吉、名前の漢らしさとは裏腹に、ぽわりとした小動物のような愛らしさを持つ生徒。
彼女の膝の上には黒い頭があり、少女の腹に顔を埋めるようにしてソファの上に横たわっている。
「…眠っているのは、委員長…ですか…?」
「はい」
小声での問いかけに、少女は頷いて返す。
華奢なようにみえてしなやかな細身の体、艶やかなぬばたまの黒髪。
こちらから表情を伺うことは出来ないが、その背格好で学ランを身に纏っている生徒は並盛中学校ではたった一人だ。
最強にして最凶、鬼の風紀委員長との異名を持つ少年、雲雀恭弥。






少年に乞われて伸ばし始めたという少女の髪が、顔を僅かに俯かせたことでさらりとこぼれ落ちる。
「…何だか疲れてるみたいだったから、俺が『少し眠ったらどうですか』って言ったんです」
ようやく鎖骨のラインを越した程度の長さの髪は、良く跳ねてしまって大変なのだと話していたのを聞いた記憶がある。
「…はあ」
「そしたら雲雀さん、『枕がないと眠れない』って言うから…」
「……それで膝枕を?」
「ええ」
屋上のコンクリートの上でだって、自分の腕を枕にして平然と眠ってしまう彼のことを、少女は知らないのだろうか。
「俺、うちに子供の居候が沢山いるから、寝かしつけるのには自信があったんです。…それで、その話を雲雀さんにしたら『じゃあ自分も』って…」
ああ、と草壁は思う。
子供を寝かしつけるなら、膝枕や子守歌が最も有効な方法だろう。
雲雀はそうやって、綱吉に寝かしつけて貰える子供達に嫉妬したのだ。
「…子守歌は時々歌ってやることがあるんですけど、膝枕まではしたことが無くて。でも俺ガリガリだから、きっと膝枕しても寝心地悪いですよって言ったんですけど…」
「いいえ、とてもそんな風には見えませんよ」
苦笑する少女に、草壁は首を振った。
「現にいま、全く目を覚まされる様子はないでしょう?普段なら、木の葉の落ちる音でも目を覚ますお方なのに」
繊細と言うべきか、はたまた神経質というべきか。
当人がそう言っていたし、実際に彼はごく僅かな物音でもはっきりと意識を覚醒させてしまう。
寝起きで機嫌の悪い彼が振るうトンファーの餌食になった哀れな人間を、草壁は何人も目にしている。
「子守歌も、歌って差し上げたんですか?」
「はい。…でも、さすがに子供向けの歌にするのはどうかと思ったから、とりあえず校歌を歌ったんですけど…」
「それじゃあ、委員長に眠るなと言うのが無茶な話ですよ」
暖房の効いた応接室に、質の良いソファ。
おまけに可愛い恋人の膝枕と体温に子守歌とくれば、睡魔がやってこない方がおかしい。
草壁がもし雲雀の立場であったとしても、十中八九眠れるだろう。






「そろそろ校内の見回りの時間なので、委員長を呼びに来たのですが…」
「え、もうそんな時間なんですか?」
「ええ」
一瞬、どうしよう、という表情を浮かべた綱吉に、草壁は笑って首を振った。
「見回りだけなら、私だけでも充分です。委員長にはこのまま、休んでいて頂きましょう」
「すみません…」
「いいえ、沢田さんが謝ることはありませんよ。むしろ、こちらがお礼を言いたいくらいです」
「え?」
きょとん、とした綱吉に、草壁は続ける。
「委員長がこれほど心を許すことの出来る相手が出来たことの方が僥倖です。委員長はご自分が出来ることは何でも自分でなさろうとするお方ですから、ムチャをなさって体調を崩されることも間々あるんです」
「…ああ、入院してたこともありますもんね……」
僅かに表情を曇らせた綱吉が、雲雀の髪にそっと触れる。
「ええ。ですから、こうして自発的にお休みになろうと思われたことは良いことなんです」
こうして会話を交わしている間にも、雲雀に全く目を覚ます様子はない。
「時々で構いません。是非沢田さんから、委員長にお休み頂くように進言していただけると、我々としても嬉しいです」
「…わかりました」
草壁の言葉に、綱吉が神妙そうに頷く。
「そう固くなられることはありませんよ。ただこうして穏やかに過ごせる時間があれば、委員長のお心も休まるでしょうから」
「……はい!」



あなたがそうやって傍にいて下さるだけで、委員長は心穏やかになれるのだ、とは、あえて草壁も言わずにおいた。
そういったことは本人が直接、綱吉に伝えればいいのだから。





作品名:放課後セレナーデ 作家名:新澤やひろ