NeverMore3
女の子を捜して、家電売場までやってくる。
休日ということもあり、それなりに客の姿があるが、高額商品の揃った一角は、やはり人影がなかった。
「あ、あの子だ!」
菜々子ちゃんが走り出した先を見れば、大型テレビの前に、ワンピースを着た女の子が立っている。
どこかで見た子だと思った瞬間、テレビから影が溢れだした。
!?
「危ない!!」
止める間もなく、女の子と菜々子ちゃんは影に捕らえられ、テレビの中に引きずり込まれていく。
慌てて差し出した俺の手を、女の子が掴もうと指を伸ばすけれど、ぎりぎりで届かず空を切った。
「菜々子ちゃん!?」
「菜々子ちゃん!!」
みんなが口々に菜々子ちゃんを呼ぶけれど、テレビの画面は、何事もなかったかのように静まり返っている。
「そんな・・・菜々子ちゃん・・・」
「な、何よ今の!?どういうこと!?」
雪子が呆然と呟き、千枝がクマにくってかかった。
「く、クマにも分からんクマー!あっちの世界は元通りになって、シャドウ達が暴れることもなくなったクマ!」
「んなこと言ったって、今、現にシャドウに連れ去られちまったじゃねーか!」
「だから、クマにも分からんクマ!昨日までは、変わったことはなかったクマよ!」
完二の剣幕に、負けじとクマも言い返す。
「先輩!早くしないと、菜々子ちゃん、またあの時みたいに・・・」
りせの声が、小さくなって消えた。
誰もが、一瞬押し黙る。
直斗が、テレビに視線を向けて、
「それに、一緒に連れ去られた女の子も。あの年頃の子が、一人でここに来るとは考えづらい。いなくなったことを家族が知れば、面倒なことになります」
「そうだよな・・・。お宅のお子さんは、テレビの中に連れ去られましたなんて、言えねーよな・・・。相棒!すぐにでも助けに行こうぜ!」
今にもテレビの中に入っていきそうな陽介を、手で押しとどめた。
「落ち着けよ。何の準備もなしに入る気か?向こうがどうなってるかも、分からないのに?クマが言っただろ、『昨日までは、変わったことはなかった』って。ということは、今になって、何か起こったってことだろ」
「そ、それは、そうだけど」
「時間がないんだ、万全の体勢を整えるとは言わない。だけど、むやみに先走って、みんなに何かあったらどうする?菜々子ちゃん達を助けるどころじゃないだろ」
「でもよう!このままじゃ二人が!」
完二の叫びに、俺は頷いて、
「二手に分かれよう。先にテレビの中を偵察する組と、こっちで出来る限りの準備をする組。俺とクマは、テレビの中に行く。陽介とりせは、こっちで準備を整えてから、テレビに入ってくれ。クマがいれば、菜々子ちゃん達の大体の居場所が分かるだろうし、りせがいれば、俺達がどこにいるか分かるだろ?準備が出来たら合流して、二人を助け出す」
陽介とりせが、二人同時に頷く。
「了解!やっぱ、お前が一番頼りになるわ」
「青葉先輩、あたし達が来るまで、無茶はしないでくださいね」
「じゃあ、リーダー、残りはどう割り振る?」
千枝の言葉に、他のメンバーもこちらに視線を向けてきた。
「ああ、千枝と直斗は俺と一緒に、雪子と完二は陽介達と一緒に行っ」
「よっしゃあ!すっげーの用意しますから、期待してくださいよ!」
「いや、完二、凄くなくてい」
「任せて。旅館の中も探してみるから」
「雪子、そこまでしなく」
「大丈夫ですよ、先輩!あたしも結構顔広いんですよ、アイドルだし」
「りせ、ちょっと落ち着」
「だよな!この際だから、出来る限りの持ってこうぜ!」
「・・・お前もかよ、陽介」
人の話を聞かず、一方的に盛り上がる彼らに、
「・・・このメンバーに行かせていいわけ?」
「途中、捕まったりしないといいんですが・・・」
千枝と直斗が、至極もっともな意見を言う。
・・・・・・・・・。
「うん、やっぱり、入れ替」
「あーーー!!!しまったクマよ!!クマ、ぬいぐるみを持ってくるの忘れたクマ!!!」
クマは、いきなり叫ぶと、
「センセイ!クマ、ぬいぐるみ着てくるクマ!!待ってて欲しいクマよ!」
「え?おい」
「何言ってんだよ、クマ!時間がねーっつってんだろ!!」
「カンジこそ、何言ってるクマよ!!このままテレビに入るなんて、そんな恥ずかしいことできないクマ!!どうしてもって言うんなら、責任取ってカンジのお嫁さんにしてもらうクマよ!!」
「何でお嫁さんなんだよ!!お前、男だろうが!!」
「あーもう!!時間がないんだから、クマはそのままでいい!!それと!千枝と直斗が陽介達と一緒に行く!雪子と完二はテレビに入る!これでいいな!!」
『おー!』
メンバーの声が響く中、クマ一人、「カンジに責任取ってもらうクマ!」と叫んでいた。
クマを先頭に、テレビの中に入る。
懐かしい、けれど、酷く不安な感覚に苛立ちつつ、顔を上げた。
「え・・・何、これ」
「何だこりゃあ!?」
雪子と完二が、戸惑った声を出す。
目の前に広がるのは、見覚えのない光景。
いつもの広場ではなく、学校の体育館のようだった。
「ク、クマも、こんなとこ知らないクマ!何でこんなとこに出るクマよ!?」
「体育館・・・みたいだな。それも、小学校の」
やけに低いバスケットゴールを見つめながら、事態を整理しようと言葉を続ける。
「やっぱり、こっちの世界に何か異変が起きたことは、間違いないな。クマ、菜々子ちゃん達がどっちにいるか、分かるか?」
「や、やってみるクマ!」
クマは、ううーと言いながら頭を抱え、左右に体を揺らしだした。
着ぐるみ姿ではない為、かなり不気味な光景だなと思っていたら、
「むむ~、確かに、ナナちゃんのけは」
「ぷっ!あははははははは!!」
我慢しきれなかったのか、雪子が突然笑い出す。
「ちょ!?天城先輩!?」
「ユ、ユキちゃん!?ちょっと静かにしてて欲しいクマ!クマ、集中しないと分からなく」
「だ、だって・・・!あははははははははは!!」
・・・・・・当分無理そうだな。
「完二、向こうの扉、用具入れみたいだから、覗いてみよう。何か、武器代わりになるかも知れない」
「うっす。行ってみましょう」
笑いが止まらない雪子と、困惑するクマを置いて、完二と二人、壁についた扉に向かった。
扉に鍵はかかっておらず、すんなりと開く。
中は薄暗く、入り口から差し込んだ光が、跳び箱やバスケットボールの入ったカゴを照らし出した。
「俺は、これでいいっすよ」
壁際に積み重なっていたパイプ椅子を掴み、完二が言う。
「天城先輩やクマが使えそうなものは、見あたらないっすねえ」
「ラケットは?テニスとか、バトミントンとか」
「あー、なるほど」
完二が、隅に置いてあるカゴを物色している間、俺も壁際に近づいて、無造作に立てかけてある竹刀を見つけた。
「これにするか」
手を伸ばした瞬間、影が落ちる。
!?
反射的に竹刀を掴み、下から降り上げた。
確かに影を捕らえたのに、まるで霞のように散ってしまう。
「何っ」
「きゃあああああああああああ!!!」
雪子の悲鳴に、完二とともに用具入れを飛び出した。
「雪子!」
「天城先輩!」
休日ということもあり、それなりに客の姿があるが、高額商品の揃った一角は、やはり人影がなかった。
「あ、あの子だ!」
菜々子ちゃんが走り出した先を見れば、大型テレビの前に、ワンピースを着た女の子が立っている。
どこかで見た子だと思った瞬間、テレビから影が溢れだした。
!?
「危ない!!」
止める間もなく、女の子と菜々子ちゃんは影に捕らえられ、テレビの中に引きずり込まれていく。
慌てて差し出した俺の手を、女の子が掴もうと指を伸ばすけれど、ぎりぎりで届かず空を切った。
「菜々子ちゃん!?」
「菜々子ちゃん!!」
みんなが口々に菜々子ちゃんを呼ぶけれど、テレビの画面は、何事もなかったかのように静まり返っている。
「そんな・・・菜々子ちゃん・・・」
「な、何よ今の!?どういうこと!?」
雪子が呆然と呟き、千枝がクマにくってかかった。
「く、クマにも分からんクマー!あっちの世界は元通りになって、シャドウ達が暴れることもなくなったクマ!」
「んなこと言ったって、今、現にシャドウに連れ去られちまったじゃねーか!」
「だから、クマにも分からんクマ!昨日までは、変わったことはなかったクマよ!」
完二の剣幕に、負けじとクマも言い返す。
「先輩!早くしないと、菜々子ちゃん、またあの時みたいに・・・」
りせの声が、小さくなって消えた。
誰もが、一瞬押し黙る。
直斗が、テレビに視線を向けて、
「それに、一緒に連れ去られた女の子も。あの年頃の子が、一人でここに来るとは考えづらい。いなくなったことを家族が知れば、面倒なことになります」
「そうだよな・・・。お宅のお子さんは、テレビの中に連れ去られましたなんて、言えねーよな・・・。相棒!すぐにでも助けに行こうぜ!」
今にもテレビの中に入っていきそうな陽介を、手で押しとどめた。
「落ち着けよ。何の準備もなしに入る気か?向こうがどうなってるかも、分からないのに?クマが言っただろ、『昨日までは、変わったことはなかった』って。ということは、今になって、何か起こったってことだろ」
「そ、それは、そうだけど」
「時間がないんだ、万全の体勢を整えるとは言わない。だけど、むやみに先走って、みんなに何かあったらどうする?菜々子ちゃん達を助けるどころじゃないだろ」
「でもよう!このままじゃ二人が!」
完二の叫びに、俺は頷いて、
「二手に分かれよう。先にテレビの中を偵察する組と、こっちで出来る限りの準備をする組。俺とクマは、テレビの中に行く。陽介とりせは、こっちで準備を整えてから、テレビに入ってくれ。クマがいれば、菜々子ちゃん達の大体の居場所が分かるだろうし、りせがいれば、俺達がどこにいるか分かるだろ?準備が出来たら合流して、二人を助け出す」
陽介とりせが、二人同時に頷く。
「了解!やっぱ、お前が一番頼りになるわ」
「青葉先輩、あたし達が来るまで、無茶はしないでくださいね」
「じゃあ、リーダー、残りはどう割り振る?」
千枝の言葉に、他のメンバーもこちらに視線を向けてきた。
「ああ、千枝と直斗は俺と一緒に、雪子と完二は陽介達と一緒に行っ」
「よっしゃあ!すっげーの用意しますから、期待してくださいよ!」
「いや、完二、凄くなくてい」
「任せて。旅館の中も探してみるから」
「雪子、そこまでしなく」
「大丈夫ですよ、先輩!あたしも結構顔広いんですよ、アイドルだし」
「りせ、ちょっと落ち着」
「だよな!この際だから、出来る限りの持ってこうぜ!」
「・・・お前もかよ、陽介」
人の話を聞かず、一方的に盛り上がる彼らに、
「・・・このメンバーに行かせていいわけ?」
「途中、捕まったりしないといいんですが・・・」
千枝と直斗が、至極もっともな意見を言う。
・・・・・・・・・。
「うん、やっぱり、入れ替」
「あーーー!!!しまったクマよ!!クマ、ぬいぐるみを持ってくるの忘れたクマ!!!」
クマは、いきなり叫ぶと、
「センセイ!クマ、ぬいぐるみ着てくるクマ!!待ってて欲しいクマよ!」
「え?おい」
「何言ってんだよ、クマ!時間がねーっつってんだろ!!」
「カンジこそ、何言ってるクマよ!!このままテレビに入るなんて、そんな恥ずかしいことできないクマ!!どうしてもって言うんなら、責任取ってカンジのお嫁さんにしてもらうクマよ!!」
「何でお嫁さんなんだよ!!お前、男だろうが!!」
「あーもう!!時間がないんだから、クマはそのままでいい!!それと!千枝と直斗が陽介達と一緒に行く!雪子と完二はテレビに入る!これでいいな!!」
『おー!』
メンバーの声が響く中、クマ一人、「カンジに責任取ってもらうクマ!」と叫んでいた。
クマを先頭に、テレビの中に入る。
懐かしい、けれど、酷く不安な感覚に苛立ちつつ、顔を上げた。
「え・・・何、これ」
「何だこりゃあ!?」
雪子と完二が、戸惑った声を出す。
目の前に広がるのは、見覚えのない光景。
いつもの広場ではなく、学校の体育館のようだった。
「ク、クマも、こんなとこ知らないクマ!何でこんなとこに出るクマよ!?」
「体育館・・・みたいだな。それも、小学校の」
やけに低いバスケットゴールを見つめながら、事態を整理しようと言葉を続ける。
「やっぱり、こっちの世界に何か異変が起きたことは、間違いないな。クマ、菜々子ちゃん達がどっちにいるか、分かるか?」
「や、やってみるクマ!」
クマは、ううーと言いながら頭を抱え、左右に体を揺らしだした。
着ぐるみ姿ではない為、かなり不気味な光景だなと思っていたら、
「むむ~、確かに、ナナちゃんのけは」
「ぷっ!あははははははは!!」
我慢しきれなかったのか、雪子が突然笑い出す。
「ちょ!?天城先輩!?」
「ユ、ユキちゃん!?ちょっと静かにしてて欲しいクマ!クマ、集中しないと分からなく」
「だ、だって・・・!あははははははははは!!」
・・・・・・当分無理そうだな。
「完二、向こうの扉、用具入れみたいだから、覗いてみよう。何か、武器代わりになるかも知れない」
「うっす。行ってみましょう」
笑いが止まらない雪子と、困惑するクマを置いて、完二と二人、壁についた扉に向かった。
扉に鍵はかかっておらず、すんなりと開く。
中は薄暗く、入り口から差し込んだ光が、跳び箱やバスケットボールの入ったカゴを照らし出した。
「俺は、これでいいっすよ」
壁際に積み重なっていたパイプ椅子を掴み、完二が言う。
「天城先輩やクマが使えそうなものは、見あたらないっすねえ」
「ラケットは?テニスとか、バトミントンとか」
「あー、なるほど」
完二が、隅に置いてあるカゴを物色している間、俺も壁際に近づいて、無造作に立てかけてある竹刀を見つけた。
「これにするか」
手を伸ばした瞬間、影が落ちる。
!?
反射的に竹刀を掴み、下から降り上げた。
確かに影を捕らえたのに、まるで霞のように散ってしまう。
「何っ」
「きゃあああああああああああ!!!」
雪子の悲鳴に、完二とともに用具入れを飛び出した。
「雪子!」
「天城先輩!」
作品名:NeverMore3 作家名:シャオ