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ファム・ファタル【試し読み】

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「…添寝してやろっか。俺、子ども寝かしつけるの得意だし」
鵺野の邪鬼のない提案に玉藻は眉をひそめる。本当に彼は無神経だ。誰のせいで眠れない夜を過ごしているのかと、問い詰めたい衝動にかられる程だ。
子供扱いをされたことは別にどうでもいい。ペンを置き、椅子を回転させて正面を向いた。
「…じゃあ子守唄がいい。どうせなら、大人を寝かしつける子守唄が聴きたい」
玉藻は真っ直ぐ鵺野の目を見て、そう言った。遠回しのようであり直接的な要求を、断られるのは十分承知の上で。
「子守唄に、大人も子供も」
ないだろう、と笑いながら言うつもりの鵺野は、ゆらりと歩み寄る玉藻の様子に声が途切れた。幽霊のように腕を伸ばして、玉藻は鵺野の肩を掴む。
「……玉、藻…?」
玉藻の身体に沿って、陽炎のように周囲の空気がひずむ。妖気が強くなり、それは闘いのときに見せたのとよく似ていた。
「……貴方は、無神経だ。どれだけ私を試したら気が済むんですか」
「……なに言って…」
「分かっているんですか、貴方は。…いいや、分かっていない。分かっているはずがない。こんなにも無防備で、無作為で、だからこそたちが悪い。私が……私をからかっているのならば…もう、私は」